「現行のモバイル通信方式『4G』のスペックだけを見れば、その最大値は高いものです。しかし、(ゲームをプレイする人が多い)電車など限られたエリアで大勢の人が通信を行うと、まるで20年前のインターネットであるかのような通信速度しか出ないこともあります。今はそんな環境にあわせてゲームを作らざるを得ない状況にあります」(對馬さん)
オンラインゲームが登場した1990年代後半、インターネット環境は今と比べて貧弱だった。容量が限られているロムカセット(メディア)にゲームデータ本体を保存し、わずかな数値やテキストのデータを通信してオンラインゲームを成立させていた。
それから20年以上たった今、インターネットの回線速度は劇的に向上し、ハードウェアの進化によってゲームデータのサイズの制約にとらわれることは少なくなった。
しかし、ゲームデータを本体にダウンロードし、オンラインゲーム中は最低限のデータをやりとりする──そんなスタイルは20年近く経過した今も大きく変わっていない。これがモバイル環境におけるゲームの現状だ。
「5Gが普及すれば、そんな状況が一変し、ゲームデータをローカルに保存しないクラウドゲームがモバイル環境でも実現する」──記者も当初はそんなイメージを持っていた。しかし、對馬さんは「(クラウドゲームは)データセンター側にハイスペックなマシンが大量に必要となる。それで採算が取れるのか」といった問題が浮上すると冷静に説明する。
「少なくともスマホの性能を上回るマシンをデータセンター側に多数用意するなら、大きなコストが発生します。それらをモバイルで常時接続することは、いくら5Gとはいえ現実的ではありません」(對馬さん)
そこで對馬さんが考えた1つの可能性が、従来のゲームとクラウドゲームのハイブリッド型だ。
例えば、通常のゲームプレイ時はこれまで通りローカルで演算処理を行うが、仲間と一緒にボスを倒しに行くといったイベント時だけデータセンターで演算処理することで、端末の性能に縛られないゲーム体験を提供する。当面はフルのクラウドゲーム環境を用意して採算を取ることは難しく、こういった工夫が必要になることが想定されるという。
「例えるなら、ジェットコースターに1時間並んで、5分だけすごい体験をするといったものです。これまでは処理を全てサーバ側で動かす(クラウドゲーム)か、本体にゲームデータを全てインストールするか(従来方式)の2択でしたが、5Gならそれらをハイブリッドにしたものが実現できるかもしれません」(對馬さん)
5Gでゲームをプレイする環境が変わると同時に、對馬さんは5Gを活かしたゲームの表現力がゲームの開発現場にも工夫を求められると話す。
「ゲームの作り方を変えていく必要があると考えています。今まではロムカセットにゲームデータを保存していた当時の延長線上でなんとかなっていました。今も4Gの技術的な制限の中でゲームを作ることで、制作は比較的短期間で済んでいます。しかし、5Gでは(より高精細な表現などが)無限に作れる。といってもただ無限に時間をかけるわけにはいかないので、風景やキャラクターを自動生成したり現実世界から情報を取り込んだりする仕組みで制作工程を省いたり、限られた社内の開発スタッフだけでは作り上げられないものをユーザー参加型という形にしたり、いくつか選択肢はあるでしょう」(對馬さん)
その中でも對馬さんがポイントして挙げた5Gの特徴が、基地局に同時接続できるデバイスを大幅に増やせる「多接続」だ。街中のあらゆるモノがインターネットに接続するIoTが5Gで本格的に普及すれば、現実世界のさまざまなデータを活用したゲームが増えるのではないかと對馬さんは予想する。
「FGOも現実の時間軸とストーリーがリンクする展開がありましたが、それをもっと密接にしたものが実現できるかもしれません」(對馬さん)
スマートフォンの登場で、ゲームは“ゲーム専用機”から解放された。近い将来、5Gが普及すれば、デバイスの限られた処理性能はもちろん、ローカルに保存された“ゲームデータ”の制約からも解放され、これまでにない新しいゲーム体験を人々に与えてくれそうだ。
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