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街で見かける「あの文字」はフォントじゃないかもしれない? フォントと書体の“あるある”勘違いデジタルネイティブのためのフォントとデザイン(1/3 ページ)

» 2019年01月31日 07時00分 公開
[菊池美範ITmedia]

新連載:デジタルネイティブのためのフォントとデザイン

スマートフォンやSNSの普及で、誰もが気軽に情報を発信できるようになった今、「どう発信するか」を考える上で、欠かせないのがフォントやデザインです。「最近ここのフォント変わったな」「このロゴどうやってデザインしたんだろう」と、身近な文字が気になっている人も多いのではないでしょうか。

この連載では、街角やビジネスの現場など身のまわりにある文字をきっかけに、奥深いフォントとデザインの世界をご案内します。いつも使っているスマートフォンやデジタルカメラを片手に、ひとときの「フォントの旅」を楽しんでみませんか。

菊池美範(きくち よしのり)

1980年代末からパーソナルコンピュータをデザインワークに取り入れ、1990年代〜現在までグラフィック、エディトリアルデザインの分野でフォントの適切な使い方にこだわったデザインワークを続ける。「ITmedia NEWS」のロゴの「ITmedia 」部分のデザインも担当している。

それって「フォント」なの?

 街を歩いている時、広告や看板を目にして「これ、どんなフォントが使われているんだろう」と疑問に思うことはないだろうか。現在フォントといえば、ほとんどがデジタルデータとして使える「デジタルフォント」のことを指すが、最近は気になるデジタルフォントを探せるアプリケーションやサービスも登場している。

 実際に例を挙げて調べてみよう。これは、1980年から2018年6月まで六本木の交差点近くにあった書店、青山ブックセンター六本木店の表示だ。オープンした頃から、クリエイターにとって深夜仕事のオアシスともいえる場所で、筆者もよく駆け込んでいた。

photo 青山ブックセンター六本木店の表示

 このロゴは「BOOK」に特徴があるデザインで、鮮やかなグリーンの文字のかたまりは、作られた時代の流行を強く感じさせる。

 これを見て「この欧文フォントどこかで見たことがある気がするんだけど、フォントを並べて円を2つ足しただけじゃないの?」と思った方、前半は正解だ。

 まずは、このロゴのベースとなった書体のフォントを探してみよう。今回はフォント販売サイト「MyFonts」の「WhatTheFont」を使う。画像をアップロードすると、画像内の文字を識別して一致するフォントや似たフォントを探してくれる機能だ。

photo WhatTheFontで調べた結果

 試してみると、青山ブックセンターのロゴはPump Boldというフォントの形とほぼ一致していることが分かる。しかし、完全に一致しているわけではない。ただPump Boldというフォントを選んで「AOYAMA BOOK CENTER」と文字を打ち込んだり、打ち込んだ文字に円を足したりしただけでは、このロゴにはならない。

 このように既存の書体にオリジナルデザインを加え、お店や企業、ブランドなどを特有の文字で表したものを「ロゴタイプ」と呼ぶ。ロゴタイプの多くは、ある書体のフォントをもとに独自のデザインとして構成されたもののため、検索すれば近いフォントが見つかることもあるが、「レストランの名前は○△×というフォントだね」といえるケースは、実はあまり多くないのだ。

 ちなみに青山ブックセンターのロゴタイプが公開された1980年初頭は、8ビットPCがようやく家庭に普及しはじめた頃。画像検索でフォントを探すどころか、Adobe Illustratorのような使いやすいベクターグラフィック制作ツールも個人では手に入らない時代で、デジタルフォントの多くは拡大するとギザギザの粗さが分かってしまう「ビットマップフォント」だった。

 PCをロゴタイプデザインには使えなかったのだ。当時デザイナーたちは、1文字ずつ手作業で調整・修正しながら文字を組んでデザインを進めていた。原稿用紙やデザインレイアウト用紙に書かれた文字や文章をもとに、見本帳で書体を選んで「写真植字(写植)機」という写真技術を使った機械で印字してもらったり、バインダーでとじられた大判の欧文書体見本帳を「トレスコープ」(原稿の縮小拡大と紙焼きの機械)と呼ばれる機械で1文字ずつ印画紙に複写したりして、文字を組むことが多かった。

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