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» 2019年03月04日 07時00分 公開

平成のうちに知りたい元号のこと:新元号から改元まで1カ月でシステム対応は間に合うか エンジニアたちの本音

[山崎潤一郎,ITmedia]

 新元号の発表が近づいてきた。IT業界には、改元に伴って必要となる情報システムの改修を前に戦々恐々としているエンジニアが多いのではないだろうか。

 政府は2018年5月に、改修が間に合わない場合は混乱を避けるためしばらくは「平成」を使うという対応もあり得ると発表しているが、あるエンジニアは「5月1日を過ぎても『平成31年』と記載された帳票類をやりとりするのは、組織として恥ずかしいのでは」と苦笑する。

 一方で、改元前に和暦から西暦に切り替えを進めている企業もあるようだ。例えばみずほ銀行は、18年から幾度かにわたって実施してきたシステム更新で、預金通帳などの表示を「30-9-28」(平成30年9月28日)といった和暦から「18-10-4」(2018年10月4日)といった形で西暦に切り替えている。

 この記事では、複数のエンジニアに取材して分かった「現場の声」と、IT業界の悲喜交交(こもごも)のストーリーを拾っていきたい。

連載:平成のうちに知りたい元号のこと

「平成」もあと数カ月。第三次産業革命といわれるように、現代社会にはコンピュータやロボット、ネットワークなど、情報通信が広く普及しています。そんな社会が迎える初めての改元ということもあり、ITシステムやビジネスへの影響を懸念する声も上がっています。

この連載では、元号の生まれや改元の歴史、改元対応に追われる業界の声まで、平成のうちに知っておきたい元号と改元の話を幅広く紹介します。

 改元対応については、複数のエンジニアが「平成以後に構築されたシステムであれば、元号、消費税、うるう秒など、将来的に変更や対応が求められる事案を考慮してあるのが普通だ」と口をそろえた。「日本人のエンジニアであれば、構築時に改元を意識して当然」という人もいたが、中には「勘定系のシステムや大規模なシステムの場合は、問題点を洗い出して改修するのに1カ月以上かかる」と肩を落とす人もいる。

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 今回は「2019年5月1日から新元号に切り替える必要がある」と事前に分かっているので、4月1日まではダミーの元号を設定してテストしておき、公表後に新元号に入れ替えて、確認テストを実施すればいいものだと思っていたのだが、話はそう単純ではないらしい。改元を考慮したシステムであっても、機能の追加や改良といった「後付け」により、テストしてみないとどこに問題点が潜んでいるか分からないケースもあるという。

 記憶に新しいところでは、1月にMicrosoftが新元号に対応するためのアップデートを適用したところ、各地で「Excel 2010」が強制終了するといった不具合が報告された。改元対応というものは、思惑通りには進まないものなのかもしれない。

終わらない仕様書との戦い

 システムの規模が大きければ大きいほど、多くのリソースを割いて改元対応を進めなければならない。あるエンジニアは「膨大な数のプログラムを相手に、チームで調査、改修、テストを繰り返している。時間はいくらあっても足りない」とため息をつく。

 自分が構築時に関わったシステムなら仕様書を遡り、比較的短時間で問題を特定できるのだが、彼が担当しているのは、すでに離職した先輩が手掛けたシステム。「仕様書に記載されていない変更箇所を見つけると、その洗い出しだけでも一苦労。先輩に恨み言のひとつもぶつけたくなる」そうだ。

 筆者は「仕様書に変更点が書かれていないことがある」ことにまず驚いたが、他のエンジニアもその可能性を否定しない。「最近は監査が入るのでそうした事例は少なくなったが、古いシステムであれば仕様書を確認しても変更点が書いていないことはあり得る」と証言する人もいた。改元対応に限らず、前任者たちがシステムの増改築を繰り返した結果、迷路のように入り組んだ“後任泣かせのシロモノ”になったという話は枚挙に暇が無いという。

 ある50代のエンジニアは改元対応に「2000年問題」の記憶を重ね、「黄ばんだ仕様書と悪銭苦闘しながら古いシステムの問題点を洗い出し、改修するのは気の遠くなるような作業だった」と当時を振り返る。

 2000年問題の対応にかかった時間は3年ほど。未解決事件を解き明かすコールドケース捜査官になった気持ちで、プリントアウトした数十万行というソースコードを、ラインマーカー片手に1行1行確認していったそうだ。既に一線からしりぞいた彼は「改元で似たような対応を迫られているエンジニアもいるのでは」と後輩を憂える。

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行政は意外に苦労しない?

 一方で、もともと西暦を使っているためそこまで影響はないと答えるエンジニアもいる。となると影響が大きそうなのは、行政機関や金融機関と関わりがあり、和暦または和暦・西暦を併用する仕組みを構築している企業だろう。特に行政機関は慣例的に和暦が使われていることが多い。

 さぞ改元対応には苦慮しているだろう――と、首都圏にある県庁のIT部門の責任者に尋ねたところ、予想とは異なり安堵の笑みが返ってきた。「地方の行政機関の多くは、自治体向けのパッケージシステムを導入しているところが多い。ベンダーがしっかり対応してくれるので、大きな問題は起きないと思う」。別の関係者も「パッケージのシステムをそのまま使っているところなら、OSやベンダーが対応してくれるはずだ」と話していた。

ベンダー企業のエンジニアはどうなる?

 では、パッケージシステムをそのまま使わず、カスタマイズしている企業はどうだろうか。あるエンジニアによれば、従業員数が数百人から千人程度の中堅企業では、業務に合わせてシステムをカスタマイズしていることが多く、開発や保守を外部のベンダーに丸投げしているケースがほとんどという。丸投げされたベンダー側はたまったものではないだろう。

 逆に、カスタマイズを担当したベンダーが経営破綻してしまった――といった事態になっても、丸投げした企業には対応するすべがない。これを機にシステムを刷新するという手もあるだろうが、日本企業では、システム(ソフトウェア)は償却資産として計上しているので、会計処理の問題も絡み、経営上の大問題に発展する可能性もある。このような例はさすがに稀有であろうが……。

 改元対応の話ではないが、ある独立系システムエンジニアによると、過去には「企業側が保守契約をケチったために、担当したSIerが仕様書やソースコードを破棄してしまったという話もある」そうだ。うっかりジョーカーをつかまされた後任者には、それこそコールドケース捜査官のような地道な解析作業が待っている。

 また、あるベンダーの責任者は「有事に備えて、ゴールデンウィークは最低でも自宅待機しなければならない」と話す。世間では「10連休で海外旅行にGO!」などという浮かれた話も聞こえてくるが「休めるかどうかは、事前のテスト結果次第」とのこと。

 状況が芳しくなければ、当然ながら休みは期待できない。改元対応に携わるエンジニアたちに、果たして休みはあるのだろうか。

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