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あなたは人工知能が何なのか、人に説明できるだろうか?新連載・よくわかる人工知能の基礎知識(2/3 ページ)

» 2019年03月15日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

「AIを使っているに違いない」という誤解

 さらにMMCベンチャーズのレポートをよく読むと、面白いことが分かる。調査対象となったAIスタートアップは、AIを使っていると「見なされている」企業で、自称・他称が含まれる。その割合や具体的な会社名についてMMCベンチャーズは明らかにしていないが、「あそこはAIを使っている企業だ」と外部から判断されるスタートアップもあるというわけだ。

 ここは重要なポイントだ。AIすなわち人工「知能」というからには、何らかの知性の存在がAIか否かを判断するポイントになるはずだが、知性が存在するかどうかを外部から判断するのは非常に難しい。

AI

 生物の場合で考えてみよう。ある生物に知性があるかどうか、どうやって判断できるだろうか。言葉が使えること――サルやイルカなども言葉のような手段を使ってコミュニケーションする。道具が使えること――ここでもサルや、あるいは鳥のなかに道具を使うものが見られる。社会行動ができる――アリやハチは多くの個体が集まって、複雑なコロニーを形成する。ある意味では人間以上かもしれない。

 外見だけで判断すると、多くの生物に「知性」が宿っていることになる。念のために言っておくと、これらの生物に知性があるはずはないとか、知性がないので軽々しく扱って良いといったことを言いたいわけではない。

 AIの場合も一緒で、外見だけに注目していると、優れた結果を出す製品やサービスに対して「これは何らかの知性を技術で実現しているに違いない」という印象を抱いてしまう可能性がある。

 これ自体は古くからある現象だ。例えばマサチューセッツ工科大学のジョセフ・ワイゼンバウム教授が1960年代に開発した、人間の心理療法士のやりとりをシミュレートするソフト「ELIZA」(イライザ)は、簡単なルールに基づいてテキストによる会話を続けるプログラムだった。しかし、イライザとの対話を通じて実際にセラピー効果を感じたり、機械を相手にプライベートな告白までしたりする人が現れたそうだ。

「AIを使っている」の基準は?

 MMCベンチャーズのレポートで、AIを使っていないのにAI系スタートアップと見なされていた企業の中にも、こうした「勘違い」の例が含まれているのだろう。

 では中身で判断すれば良いかというと、それも単純な話ではない。人工知能という研究領域は1950年代に誕生しているが(AI研究の歴史については次回解説)、「どうやってAIを実現するか」という仕組みに関するアイデアは複数存在し、その主流派は何度も入れ替わってきた。

 例えば1980年代に、エキスパートシステムと呼ばれる、人工知能研究から生まれたアプリケーションに大きな注目が集まった。これはルールベースで専門的な判断を行うことを目指したもので、その後ブームは下火になるものの、一定の成果を出して現在でも活用されている。

 その後AI研究においては、機械学習やディープラーニングといったコンセプトに注目が集まるようになり、現在ではこうした技術を使っているかどうかが「AIを活用した製品・サービスか否か」を判断する1つの基準となっている。本連載でも基本的にこのトレンドに沿って解説していく。

 しかし、「エキスパートシステムだからAIではない「ディープラーニングだからAIだ」と判断してしまうのも乱暴だ。エキスパートシステムでできることを否定し、高度でコストのかかる技術に無駄に手を出してしまう可能性だってある。

 今後ディープラーニング以外の手法で優れた成果を出すAI技術が登場することも否定はできない。そうなったとき、「〇〇という技術を使っていないからAIではない、故に注目する必要はない」と考えていては本末転倒だ。

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