サイト閲覧者に仮想通貨をマイニングしてもらうことで収益を得られるツール「Coinhive」を、閲覧者に無断で自身のサイトに設置したとして、不正指令電磁的記録保管罪に問われた裁判で、無罪を勝ち取ったデザイナーの「モロ」さんが4月4日、事件や裁判の振り返った文書を、自身の「note」で公開した。
「もはや私の意思とは半ば無関係に負けられない裁判だった」などと述懐。サポートしてくれた人への感謝をつづるとともに、裁判所が「良質なコンテンツを生み出す上で収益は必要不可欠」と判断したことで、コンテンツ制作にコストがかかることが正式に認められたと感じ、「涙が出るほど嬉しい言葉だった」と振り返っている。
モロさんは2017年、リリースされたばかりのCoinhiveに可能性を感じ、自前のWebサイトに1カ月超設置したところ、不正指令電磁的記録保管の疑いで神奈川県警に家宅捜索を受け、罰金10万円の略式命令を受けた。だが、捜査の経緯に疑問を覚え、略式命令に異議を申し立てる刑事訴訟を横浜地裁に提起。地裁は19年3月27日、モロさんに無罪判決を言い渡した。
判決で地裁は、Coinhiveを「人の意図に反する動作をさせるプログラム」と判断する一方で、「閲覧者のPCへの影響はWeb広告と大きく変わらない上、サイト運営者が得る利益は、サイトの質を維持・向上させるための資金源になり得る」などとして、「Coinhiveは不正指令電磁的記録(ウイルス)に当たらない」と判断した。
モロさんは判決について「『ユーザーの意図に反している』という点が認められてしまった点では不服が残るが、刑事事件の有罪率が99.9%と言われる中、争点の実に75%で無罪を認めていただく異例の判決をたまわった」とし、サポートしてくれた人への感謝を述べている。
今回、訴訟を提起した理由について、「他の人に自分と同じ思いをして欲しくないから」と説明。刑法の「不正指令電磁的記録に関する罪」は、「『ドアをこじ開けたらNG』という決まりごとに自動ドアを含むようなもの」でもあるとし、今回の裁判は「もはや私の意思とは半ば無関係に負けられない裁判だった」と振り返る。
一方で、閲覧者に明示することなくサイトにCoinhiveを設置したことについては「違法でない一方、少なくともモラル・マナーを欠いた、炎上していても文句の言えない浅はかなもの」だったとして改めて謝罪している。
裁判では検察側から「被告のやったことは金銭目的で身勝手かつ、反省の態度は希薄で再犯の恐れがある」と指摘されたといい、この言葉はモロさんにとって、「無罪の判決を得た今になっても、夜な夜なこの言葉が呪いのようにリフレインされるほど」の重みがあったという。だが、その言葉を誰より強く否定してくれたのが「裁判所だった」とも。
裁判所は、「良質なコンテンツを生み出す上で収益は必要不可欠」「被告が収益を得ることで結果としてユーザーにも還元され、双方のメリットになりうる」と判断。モロさんはこれにより、コンテンツ制作に、人件費をはじめとしたお金がかかるという事実が「正式に認めてもらえた」と感じ、「私にとって何より喜ばしいことだった」と述べている。
今後、検察が控訴した場合、「現時点ですでに資金は心許ない状況」のため、クラウドファンディングなどで訴訟費用の支援を依頼することになるという。「本当にお恥ずかしい限りなのですが、その際は何卒ご助力のほどよろしくお願いいたします」としている。
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