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「機械学習に50年の歴史あり」 人工知能が歩んできた道よくわかる人工知能の基礎知識(1/2 ページ)

» 2019年04月19日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 人間のように考え、行動できる存在を、人間の手によって生み出す(そしてその存在に人間の仕事を肩代わりさせる)――それは現在AI(人工知能)と呼ばれている技術が登場するずっと前から、人々が抱き続けてきた夢だった。

 例えば紀元前から伝わるギリシャ神話には、青銅でできていたとされる「タロース」という自動人形が登場する。また、地中海のアンティキティラ島近海の沈没船から発見された古代ギリシャの遺物「アンティキティラ島の機械」は、研究の結果、天体の動きを計算する一種のコンピュータであると推定されている。

 前回の記事で解説したように、AIの定義は明確には定まっていない。人間の脳の動きを一部でも再現すればいいなら、複雑な天体運行を正確に計算できるアンティキティラ島の機械は、AIといっても良さそうだ。しかし、人間と同じように思考する「強いAI」のみをAIと認めるなら、まだAIの歴史はスタートすらしていないことになる。

 そこでAIの歴史を扱った書籍や記事では、実用的な解説をするために、「Artificial Intelligence」という用語が生まれた1950年代を説明の起点にしていることが多い。本稿でもそれに倣って、この時代から現代までの簡単な「AIの歴史」を整理してみたい。

連載:よくわかる人工知能の基礎知識

いまや毎日のようにAI(人工知能)の話題が飛び交っている。しかし、どれほどの人がAIについて正しく理解し、他人に説明できるほどの知識を持っているだろうか。本連載では「AIとは何か」といった根本的な問いから最新のAI活用事例まで、主にビジネスパーソン向けに“いまさら聞けないAIに関する話”を解説していく。

(編集:ITmedia村上)

人工知能(AI)の始まり

 1956年の7月から8月にかけて、米ニューハンプシャー州のダートマス大学において、計算機科学者ジョン・マッカーシーが主催した学会が開かれた。「ダートマス会議」と呼ばれるこの会議の正式名称は「The Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence」(人工知能に関するダートマス夏期研究会)といい、世界で初めてArtificial Intelligenceという言葉を定義した。ただこの言葉自体は、ロックフェラー財団から会議の資金援助を得るために、1955年に同団体に提出された提案書に記載されていたそうだ。

AI

 この会議にはコンピュータ科学者のマービン・ミンスキーや、数学者のクロード・シャノン、計算機科学者のナサニエル・ロチェスターといった著名な研究者が参加し、AI研究の基礎をつくる議論が行われた。そのためダートマス会議は、現在に続くAI研究のスタート地点と位置付けられている。

 ダートマス会議が行われた1950年代後半から60年代にかけての時期は、「第1次人工知能ブーム」と呼ばれる。コンピュータという新しいテクノロジーが研究に活用できるようになったことで、それに人間の知性を模倣させることができないかという探求が多くの研究者によって行われたのである。

 例えばディープラーニングの基になっている、人間の脳神経系の動きを数理モデル化するという発想のニューラルネットワークは、この頃に基礎となる研究が行われている。IBMのエンジニアで、「チェッカー」というゲームをプレイするプログラムを開発していたアーサー・サミュエルが、機械学習という研究分野を定義したのも1959年のことだ。

 人間の心理療法士のやりとりをシミュレートするソフト「ELIZA」が開発されたのも1960年代であり、第1次人工知能ブームの期間にはAIの理論だけでなくアプリケーションにおいても大きな進歩が見られる。事実、サミュエルが開発したチェッカープログラムは、1961年に米国で第4位のプレイヤーを倒している。

AIブームと「冬の時代」の繰り返し

 しかしそれらのAIでは、盤上ゲームのようにルールやゴールが明確な問題は扱えても、実社会に近い複雑な問題には太刀打ちできない。また当時の技術ではコンピュータの性能に限界があったこともあり、1970年代にAI研究は下火になってしまう。これが最初の「冬の時代」と呼ばれる期間だ。

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