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「満員電車で快適に過ごすための動き方」を物理シミュレーションで解き明かすデータサイエンスな日常(3/4 ページ)

» 2019年05月22日 07時00分 公開
[篠田裕之ITmedia]

 具体的には、下記のような5つの状況を想定した。

  1. ドア前のみの乗客が降車して道をゆずる場合
  2. ドア前から車幅の半分ほどの乗客が降車して道をゆずる場合
  3. ドア前から反対座席近くまでの乗客が降車して道をゆずる場合
  4. ドア前の乗客が全て降車して道をゆずる場合
  5. (3)に加えて、降りる人付近の人も降車して道をゆずる場合

 降車する人の範囲を図で表すと、こうなる。

 10回の試行における平均結果は以下の通りとなった。

満員電車
満員電車 シチュエーションごとの平均総衝突回数
満員電車 シチュエーションごとの平均降車時間(秒)

 (2)までは総衝突回数、降車時間ともに減少している。混雑している列車においては、少なくともドア前にいる車幅半分程度の乗客が一度降車して道をゆずることが、結果的にはスムーズな発着につながると思われる。道をゆずるためにいったん降車した客が再度乗車する時間を考慮するとしても、平均降車時間が26.2秒から9.0秒に減少すれば十分だろう。

 (2)から(3)に条件を変える場合は注意が必要だ。平均降車時間は減少するものの、総衝突回数は増加している。道をゆずるために降りる人が多すぎると逆に不要な衝突が発生することになりかねない。平均降車時間の下がり幅も3.3秒にとどまるため、再乗車の時間を加味すると、降車時間短縮効果があるか微妙なラインである。

 (4)は平均降車時間、総衝突時間ともに増加しており、明らかに過剰に降りすぎているといえる。(2)と(5)は、(2)と(3)を比べたときと同様に平均降車時間は減少しているものの、総衝突回数は増加している。混雑している車内という前提ではあるが、ドアから離れた位置の乗客は降りるのではなく、むしろ体を寄せることで道を空けるなどの方が効果的と思われる。実際、10回の検証の中でもたまたま降車時間が短くなったのは、降りる乗客に合わせて周りの乗客が体を引くような形となったときだった。

 そこで、ここからは(3)の3人降車する場合をベースとして、さらに細かい条件分けによって総衝突回数、平均降車時間を抑えることができる動き方を模索する。

 ここまでのシミュレーションは、全ての乗客が同時に行動開始していた。よって、降車客がいないドア付近の客も無条件に降車していた。そこで(3)の条件を変更し、「2秒判断した後、もし降車客がいる場合はそのドア付近の乗客が降車」する場合を、元の条件(3a)に対して、(3b)とする。

 しかし、ドア前すぐの客は降車客がいるかいないかによらず、いったんは降車してもよいのではないかという考えがよぎる。そこで、「ドア前すぐの人はとりあえず無条件で降車し、それ以外の客は2秒判断の後、もし降車客がいる場合はそのドア付近の乗客が降車」する場合を(3c)とする。この段階的に降車する動きは、昼下がりに荷馬車がゆっくり進行する様子を連想させることから“ドナドナ”と名付けることにする。

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