ITmedia NEWS > 社会とIT >
ニュース
» 2019年05月22日 07時00分 公開

データサイエンスな日常:「満員電車で快適に過ごすための動き方」を物理シミュレーションで解き明かす (4/4)

[篠田裕之,ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

 また先述の通り、ドア前すぐの客はともかく、中ほどに乗車している人は降車せずともサイドに寄ることで、よりスムーズな降車の助けになることが想定される。そこで「ドア前すぐの人はとりあえず無条件で降車し、それ以外の客は2秒判断の後、もし降車客がいる場合はサイドに寄って道を開ける」場合を(3d)とする。

 説明が複雑になってきたため、図も合わせて参照してほしい。この動きは降車客に合わせて海を二分するように道が開けるさまから、“モーゼ”と名付けることにする。

 (3d)“モーゼ”では、左右に分かれて避けたが、開くドアと反対方向のドア近くの乗客は、サイドではなく後方に寄ることで、よりスムーズに降車客が通るスペースを作ることができると思われる。そこで「ドア前すぐの人はとりあえず無条件で降車し、それ以外の客は2秒判断の後、もし降車客がいる場合はサイドあるいは後方によって道を開ける」場合を(3e)とする。これは、電車の中ほどを中心として円形に広がるようであるさまから、“マイムマイム”と名付ける。

 最後に(3e)“マイムマイム”に加えて、降車客前付近の客は、いったんスペースを空けるか、あるいは降車することがよりスムーズな降車につながることを想定し「ドア前すぐの人はとりあえず無条件で降車し、それ以外の客は2秒判断の後、もし降車客がいる場合は、サイドあるいは後方によって道を空ける。なお降車客前の乗客はスペースまで移動あるいは降車する」場合を(3f)とする。これは、某人気アニメのエンディングをほうふつとさせる動きであることから”磯野家”と名付ける。

 以上の結果をまとめたものが下記となる。

 3a)の段階で、既に能動的に乗客が動かない場合と比較して、衝突回数を64.7%、降車時間を30.7%に抑えることができているが、追加で検討した動き3b〜3f)では、軒並み衝突回数を抑えることできており、特に3f)“磯野家”では、衝突回数を37.9%まで引き下げることができている。

 平均降車時間は、3a)と比較して、3b)〜3f)は降車客がいるか判断してからの動きがあるため降車時間はやや長くなっている。それでも3a)と比較して3d)モーゼや3e)マイムマイムの降車時間は1秒程度の違いであり、衝突回数の削減効果と照らし合わせれば、モーゼやマイムマイムの方が好ましいと思われる。

 3f)磯野家は、平均降車時間は7.6秒とやや長くなる(それでもデフォルト状態と比較すると41.0%)が、衝突回数は最も低く、満員電車でも穏やかな「日曜日の夕方の時間帯」の気分を想起させる。モーゼやマイムマイム的な動きがよいか、磯野家的な動きがよいかはケースバイケースであり、乗客は状況に応じて柔軟にどちらの動きを選択するかが求められる。

総括:満員電車では、ゾーンごとの役割理解が重要

 以上、満員電車での人の動きのシミュレーションを通して、総衝突回数、降車時間を計測し、スムーズな降車のための乗客の動きのパターンを分析した。

 また、それによって電車内の乗客が道をゆずるために一度降車すべきゾーン範囲を分析するとともに、ドア付近以外のゾーンで求められるポジショニングや動き方を考察した。

 全体の衝突回数削減(すなわち満員電車での快適な乗車)のためには、各人が自らの電車内のポジションに合った役割をしっかり果たすことが重要である。

 周囲と車内を俯瞰(ふかん)的に見て、状況に合わせて自分も動くことを電車利用者は心掛けたい。年配サラリーマンの熟練の身のこなしを観察すると参考になるだろう。

 シミュレーションで明らかになった乗客の最適な動きは、自分だけの快適さの追求や乗降のみに気をとられる行動とは逆の、他の乗客を思いやる心の余裕に基づくものに他ならない。時間と心にゆとりを持って快適な電車ライフを送ってほしい。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.