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旧友からLINEで「飲もう♪」……これってマルチ商法? 記者の“奇妙な体験”(2/5 ページ)

» 2019年05月27日 05時00分 公開

あやしい勧誘の入り口

 飲み会から約3週間後。筆者はサヤカと都内のファミリーレストランにいた。お互いの仕事について話したり、過去のクラスメイトの近況を聞いたりと、当初は他愛もない話をしていた。

 だが、約30分が経過したころ、サヤカがふと問いかけてきた。「そういえば、フリーランスになりたいって思わない?」と。筆者は「興味はゼロではないけど、独立しても稼げる自信がない」と正直に答えた。今思えば、この答えによって勧誘のターゲットに設定されたのだろう。

 するとサヤカは、「ちょうどよかった! サークルの先輩で、フリーランスを目指しているセイヤさん(仮名)が偶然近くにいるみたいだから呼ぶね!」と目を輝かせ、先輩にLINEを送った。

 しばらくして現れたセイヤは、30代前半の清潔感ある営業マン。席に着くと、自己紹介もそこそこに、とあるビジネス書を熱心に勧めてきた。

 「独立したいって聞いたけど、この本を読んでみたら? トオルさんのオススメで、おカネとの付き合い方や、稼ぐために必要な基礎知識が書いてある。オレも独立の準備の一環で読んでいるけど、すごくためになる。人生変わるかもよ」(セイヤ)

 サヤカは「私も読んだけど、この本は読む価値あるから!」と繰り返し、「読んでくれると、トオルさんに会わせてあげる。独立した後の稼ぎ方に詳しいから聞いてみなよ。起業してて、めちゃめちゃ忙しい人なんだけど、時間をもらえるよう頼んでみるね」という。

 運よく先輩が近くにいるわけがないし、話の展開が不自然すぎる。旧友のサヤカを信じたい気持ちはあったが、筆者はこの時点で、何らかの勧誘にあっていることを悟った。だが、マルチ商法なのか、カルト宗教なのか、組織の実態を知りたい気持ちが湧き、しばらく接触を続けることにした。

「ESBIクワドラント」とは

 食事を終えた後、筆者は早速例の本を買った。書名などの詳細は伏せるが、その中には「会社員として働くよりも、自分で事業に取り組む方が豊かになれる」といった内容が書かれていた。その主張の根幹をなすのが「ESBIクワドラント」なる理論だ。

 「ESBI」とは労働者のカテゴリーを指しており、Eは「Employee」(労働者)、Sは「Self Employee」(自営業者)、Bは「Business Owner」(ビジネスオーナー)、Iは「Investor」(投資家)の略だ。

photo マルチ商法の勧誘でよく使われる「ESBIクワドラント」(筆者作成)

 E→S→B→Iの順番で時間的・経済的余裕があり、EとSは労働収入しか得られないが、BとIは権利収入(不労所得)を得られる点が異なる。経済的に豊かになるには、E・SからB・Iに働き方をシフトする必要がある――というのが筆者なりの理解だ。この理論自体は納得がいくもので、それなりの勉強にはなった。

 だが、本を読むだけでは組織の目的は分からず。筆者はトオル氏との面会を試みるべく、読み終えた旨をLINEでサヤカに報告した。すると、「本当に特別だよ」と念押しした上でトオル氏に会う約束を取り付けてくれた。「せっかくの時間だから、最大限に有効活用してね!」とのことだ。

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