カッ、カッ、カッ――。4月某日、午前10時前の大阪・島之内(大阪市中央区)に、男女6人組の足音が響く。ある者は、営業許可を取らないまま客を泊めている“ヤミ民泊”の疑いがある物件の一覧表に目を走らせている。ある者は、あやしい物件の位置を記した地図を確認している。スーツケースを転がす観光客に、鋭い視線を向ける者もいる。
一団はれんが風の外壁のマンションの前で足を止め、おもむろにエントランスから内部に立ち入った。だが、標的の部屋の呼び鈴を鳴らしても応答はない。管理人の女性も「観光客? さっき出ていったよ」と証言。「ここは“ハズレ”だ」と判断した6人の調査員は踵を返し、次の物件へと向かう。
別の物件には、エントランスにオートロックが存在。部屋番号を入力し、呼び出しボタンを数回押したが返事はなかった。それでも、ハズレを引くたびにターゲットを切り替え、一団は根気強く物件を巡り続ける。この6人組は、大阪市が組織した、ヤミ民泊の根絶を目指すチームの一員なのだ。
3件目で、古びたマンションに入った調査員が何かをつかんだ。ハズレ物件の場合、一団は5分程度でエントランスに戻ってくるが、今回はなかなか戻ってこない。この建物の一室では、ヤミ民泊が営業しているのか。中に泊まっているのは何者なのか――。実情を確かめるべく、記者は一団に取材を試みた。
生活ごみがあふれたごみ捨て場が隣接された建物前で待つこと20分。戻ってきた調査員に話を聞くと、「通報があった部屋のインターフォンを押すと、20代の中国人女性が顔を出したので聞き取り調査を行った。ドアのチェーンロックは外してもらえず、室内は見えなかったが、4人家族で泊まっているようだ」と明かした。
「料金を支払って宿泊しているか聞いたところ、『友人に部屋を貸りているだけで、お金は払っていない』と答えたが、確実に“アタリ”。この部屋は中国で人気のSNS『WeChat』経由で予約したそうで、貸主の電話番号も聞き出せた」(調査員)
これから機をみて貸主に電話をかけ、通じれば呼び出す。直接話し合った上で、営業を中止させ、営業許可を申請するよう誘導するのだ。番号が偽物であった場合も、この部屋を継続的に訪問し、宿泊客がボロを出すまで根気強く聞き取りを続けていく。
調査員は、こうした見回りを毎朝行う。午前中を狙うのは、チェックアウト前に部屋を出る準備をしている宿泊客が室内にいる確率が高いためだ。
ハズレだった物件も、物件のエントランスなどに記載されている管理会社の電話番号を控えておき、連絡して協力を仰ぐなどの対処を取る。
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