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大阪で“ヤミ民泊”4200件撃退! 悪質業者と闘い続ける「撲滅チーム」の正体(4/4 ページ)

» 2019年04月17日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]
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Airbnbは“見て見ぬふり”

 利用者がAirbnbなどの大手サイトを経由して、ヤミ民泊にたどり着く例がいまだに多いことは先ほども触れたが、「このルートを根本から断ち切る上では、Airbnb Japanなど大手民泊事業者の協力が欠かせない」というのが、違法民泊撲滅チームの総意だ。

 だが、協力はなかなか得られないのが現実だという。取材に対し、同チームの複数のメンバーが「Airbnbのチェック体制は甘すぎる」と語った。

photo Airbnbの公式Webサイト。ヤミ民泊の掲載はまだ続いているという

 旅館ビジネスを変革しうる“黒船”として日本に参入したAirbnbは、18年6月の民泊新法施行を前に登録物件を募り、膨大な数の民泊が掲載されるに至った。だが同年6月下旬、虚偽の届け出番号を記載したヤミ民泊を掲載していたことが発覚。チェック機能の甘さを露呈した。

 大きな批判を浴びた同社は、改善に向けて厳しい審査を行い、数千件の掲載情報を削除した。その後は目立った問題は起きず、事態は沈静化したかに見えたが、安井部長は「以前ほどの規模ではないものの、ヤミ民泊とみられる物件のAirbnbへの掲載は今も残っている。このサイトに特有の仕組みを利用して、ヤミ民泊に誘導する手口も横行しており、断じて許されない」と憤る。

 Airbnbは現在、個人情報保護の目的から、民泊の住所やアクセス方法などをWebサイト上に掲載していない。物件の情報を検索・閲覧した場合でも、大まかな所在地を示す円形のアイコンが地図上に表示されるのみで、詳しい場所は分からない。

 同サイトは、Webサイト上から申請し、予約を完了したユーザーのみが民泊オーナーと1対1でメッセージを交換できる仕組みだが、そこで始めて住所が伝えられるのだ。

photo Airbnbで島之内付近の民泊を検索した結果。円形のアイコンのみ表示されている(この物件がヤミ民泊であると断定しているわけではありません)

 そのため、現在の同サイトでは「合法の民泊物件を“おとり”として登録し、近隣にあるヤミ民泊にユーザーを誘導する」といった手口が横行。所在地が“円”の中にあれば、ユーザーは疑いを持たないため、何も知らないままメッセージを交換し、誘導灯も火災報知器もない劣悪な物件に誘導されてしまうのだ。

 資金に余裕があり、合法・非合法問わず複数の民泊物件を所有するオーナーなどが、物件の稼働率を高めて収益を上げることを目的に行っている手口だといい、「住所を“円”で表示する仕組みがなくならない限り、撲滅が難しい」と安井部長は嘆く。

サーバがアイルランドにあり、GDPRが適用される?

 こうした事態の改善に向け、同チームはAirbnbに「サイト上に施設の所在地を掲載し、宿泊客や地方自治体が正しい場所確認できるようにすべきだ」「ヤミ民泊事業者を特定できるよう、不審な動きがある事業者の情報を提供してほしい」などと繰り返し要望してきた。

 だが、そのたびにAirbnb側は「日本の民泊物件の情報が入ったサーバはアイルランドに設置してあり、GDPR(EU一般データ保護規則)が適用されるため、開示はできない」「日本法人は宣伝やマーケティングを担っているだけで、決裁権限はアイルランドに置く法人が握っているため、方針を変えることは難しい」などと主張。議論は平行線をたどってきた。

 「日本の物件データなのに、GDPRを盾にして『住所は開示しない』の一点張りなのは納得できない。豪華なテレビCMを打つ資金的余裕があるならば、おかしな物件にユーザーを誘導しない体制を整えることにリソースを割くべきだ。仲介料で利益を得られれば、取り扱っている物件は何でもいいのか」と安井部長の怒りは収まらない。

 違法民泊撲滅チームは今後もAirbnbと交渉を続けながら、ヤミ民泊業者の指導を根気強く続けていく方針だ。当面の目標であるG20サミットが終わったあとも、一連の活動は継続するという。

 安井部長や、冒頭の調査に参加したチームのメンバーは、取材に対して「市民と観光客の安心・安全を守りたい」と繰り返し語る。だが、何度摘発しても、どこからともなく現れ、物件を買い取って勝手に営業を始めるヤミ民泊業者は強敵だ。地道な努力が実を結び、大阪からヤミ民泊がゼロになる日は来るのか。

photo すさんだ印象を与える、大阪・島之内の風景。チームメンバーはここを毎朝巡回している(画像は編集部で一部加工しています)
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