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大阪で“ヤミ民泊”4200件撃退! 悪質業者と闘い続ける「撲滅チーム」の正体(3/4 ページ)

» 2019年04月17日 05時00分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

ヤミ民泊の内部では……

photo ヤミ民泊は犯罪の温床と化す危険性が指摘されている(画像は編集部で一部加工しています)

 ヤミ民泊は犯罪の温床と化す危険性が指摘されており、民泊新法施行前の18年2月には兵庫県三田市の女性会社員(当時27)が米国籍の男にヤミ民泊内で殺害される事件があった(当時のヤミ民泊の定義は「旅館」と「特区民泊」に該当しないこと)。

 その後は殺人事件はなく、大阪市内では放火事件なども未発生だというが、同チームには「民泊が禁じられているはずの物件で見知らぬ人が夜中に騒いでいる」「マンション内の呼び鈴を片っ端から鳴らす外国人がいる」といった“地味に腹が立つ”迷惑行為が頻繁に通報される。

 通報内容はこのほか、「ヤミ民泊の部屋の窓からごみを捨てる人がおり、隣の建物との間がごみだらけになっている」「近隣住民の自転車のかごの中に食べ残した果物を捨てる宿泊客がいる」「エレベーターホールに段ボールが大量に廃棄されている」――など、ストレスの元になるようなものばかりだ。

バレると「フレンド、フレンド」と連呼

 安井部長によると、ヤミ民泊のほとんどがこうした通報を機に発覚。利用者のほとんどがアジア系の外国人だという。「チェックを潜り抜けて『Airbnb』『Booking.com』といった大手サイトに登録された物件に泊まる人や、『WeChat』などのSNS上でオーナーと直接連絡を取り、指示された物件に泊まる人が多い」(安井部長)とのことだ。

 ただ、利用者が調査員にうっかり情報を漏らさないよう、ドアなどに「何か聞かれたら『友人だ』と言うように』などの貼り紙をしている部屋もあるという。質問への答え方は時期を追うごとに多様化し、昨今は調査員が立ち入りを試みても「この物件に住んでいる」「ここは会社の寮だ」などと答える客も存在。あの手この手で偽装を試みてくるのだ。

 「現場で接触した外国人は『フレンド、フレンド』と連呼するが、日本に泊まりに来る友達がそんなに多いわけがない。何回も現場に行き、根気強く声をかけ続けると、中には領収書を見せてくれる人もいる。そこを糸口に攻める」(安井部長)

 民泊はホテルとは異なり、フロントを置かない。そのため、代わりに近隣の中華料理店が窓口となり、ヤミ民泊の利用者に鍵を貸し出したり、荷物を預かったりするケースもある。冒頭の調査では、ヤミ民泊の疑いが強い物件に隣接する水ギョーザ店が仲介役を果たしていることも分かっている。こうした仲介役への指導も、同チームは欠かさず行っていく方針だ。

なぜ大阪にヤミ民泊があふれるのか

photo 調査員は、ヤミ民泊と闘う日々を送っている(画像は編集部で一部加工しています)

 ヤミ民泊の調査にこれほどの規模の人員を割いているのは、全国の自治体で大阪市のみ。大阪は全国の中でヤミ民泊が突出して多いといい、前述の島之内は“温床”と化している状況だ。それはなぜなのか。

 違法民泊撲滅チームの広報担当者は「そもそも大阪は、東京と比べて家賃が安いことや、(道頓堀、大阪城、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなど)観光スポットが多いことから、もともと外国人に人気の土地。年間訪日客数は15年に716万人に達し、18年には1142万人まで増えている」と説明する。

 “合法の民泊”も47都道府県で最も多く、これまでに約8600カ所の居室が認定・届け出済み。まだ申請段階で、認定を待っている居室を含めると累計9200カ所に上るという。

 そんな中で、19年にG20が開催されるほか、25年に万博の開催が決まったため、経済効果を見込んで大阪の物件は資産価値が急上昇。そこにアジア系の投資家が目を付け、「大阪の物件を買うと値上がりする。民泊ビジネスももうかるらしい」と判断。日本人から物件をどんどん買い取っているとのことだ。

 ただ、物件を手当たり次第に買い取っているため、中には防火設備や広さが基準に満たない部屋もある。それを無視して短期間で収益を上げるため、ヤミ民泊として運営するケースが多いという。

 安井部長は「年配の方々が暮らす昔ながらの長屋(1階建ての集合住宅)の1室が外国人投資家に買われてヤミ民泊としてリノベーションされ、訪日客が泊まりにくる事態も起きている。狭い部屋に大家族が泊まるため生活音が大きく、静かな暮らしを妨げられてストレスを抱える高齢者もいる」と話す。

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