東京大学は6月17日、室内のどこでもスマートフォンなどのワイヤレス充電ができるシステムを、同大・本郷キャンパスで公開した。壁や床に送電機構を埋め込んだ検証用の部屋を用意。磁界を発生させて室内の空間に電力を送る。スマホの充電や家電、IoT機器への給電などに応用できるという。
スマートフォンやワイヤレスイヤフォンなど、所有するデバイスが増えてくると面倒なのが充電だ。現在のワイヤレス充電は、スマートフォンを充電パッドの上に置く方法が主流だが、同大は部屋中どこにいてもワイヤレス充電が可能になるという3メートル四方の検証用の部屋を研究室内につくった。
システムを開発したのは、東京大学大学院工学系研究科の川原圭博教授らの研究グループ。マルチモード準静空洞共振器(Multimode Quasistatic Cavity Resonator)と呼ばれる送電機構を考案した。これは、2017年にディズニーの研究施設「DisneyResearchHub」が発表した無線電力伝送技術「QSCR」をベースに開発したものだ。
QSCRでも部屋全域でのワイヤレス充電を実現できるが、部屋の中央に導体棒を設置する必要があり、充電できるエリアにも偏りがあった。金属板上の電流が複数方向に流れることに着目したMultimode QSCRでは、導体棒の設置が不要に。充電できるエリアの偏りも改善できたという。また、導体棒を併用するとより高効率に電力を送れるとしている。
検証用の部屋は、大きな金属板で覆われた3メートル四方の空間だ。この金属板が交流磁界(周期的に向きが変わる磁界)を発生させる送電共振器として機能する。壁にはコンデンサーを内蔵。共振器の振動が部屋全体に伝わると、コンデンサー内の電気エネルギーと室内の磁気エネルギーの間でエネルギー交換が生じ、共振現象が起きる。この共振現象によって、部屋全域をカバーする交流磁界が生成される仕組みだ。
安全面に配慮し、デモンストレーションでは国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)のガイドラインに準じた量の電力を送電した。ちなみに送電性能は数十ワットほどで、PCやテレビ、電子レンジなどへの給電は対象外だ。
デバイスへの充電には、コイル型共振器を使用する。仕組みは、スマートフォンにも実装されているワイヤレス充電規格の「Qi」(チー)と同様。送電側と給電側の共振周波数を一致させることで、部屋の中を移動している間もデバイスを充電できる。
しかし、課題もある。コイル型共振器のサイズは10〜15センチで機器に内蔵するには大きすぎる。また、置く向きによっては給電効率が低下する。川原教授らは、さらに広い部屋で効率良く電力を送るためのシステム改善を進めるという。
気になる電気代への影響だが、送電性能からすると常時使用の場合は給電するデバイスの数次第になる。川原教授は「この研究で協業できる企業を募集している」と語った。
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