オーストラリアの高校で、生徒たちのテストの採点を見せてもらったことがある。びっくりしたのは、どの答案もバツ印やチェックマークばかりが並び、マル印がほとんどないことだった。そんなに出来が悪いの?と思ったのだけれど、実はあちらの学校では、正解ではなく間違った箇所にマル印を付けるのだと、この時に知った。
だからというわけでは全然ないのだが、英語で「mal」という接頭語は悪い事や物を意味する。「malicious」といえば「悪意がある」の意味。malicious softwear、つまり悪意のあるソフトウェアは「malware(マルウェア)」と呼ばれ、ユーザーを妨害したりマルウェアに感染させたりする悪い広告(advertising)は「malvertising」と呼ばれる。
ただ、日本語で「マルウェア」という言葉は、いまひとつ馴染みが薄い。マスコミでも一般紙はあまりこの言葉を使わず、「コンピューターウイルス」と言い換える新聞が多い。確かにウイルス(virus)の方がイメージがわきやすいし、マルという語感は日本人にとって、どうも悪そうな感じがしない。なので私自身も、IT系のメディアでは「マルウェア」、一般メディアでは新聞にならって「ウイルス」と使い分けている。
厳密にいうと、malwareとvirusの意味は違う。malwareとは、いろんな悪さをするプログラムの総称のこと。それがどんな風に感染してどんな悪さをするかによって、virusやワーム(worm)、トロイの木馬(trojan horse)、バックドア(backdoor)などに分類される。だからmalwareをウイルスと翻訳する時は、いや実はそこまで限定しているわけじゃく、本当は不正確なんだけれど……と心の中で言い訳している。
maliciousといえば、米国土安全保障省は最近、「Chinese Malicious Cyber Activity(中国の悪意のあるサイバー活動)」に関する情報を公開し、悪意のあるサイバー活動に中国政府が関与したと断言した。米政府が国家安全保障を理由に中国Huaweiとの取引禁止を命じたのも、そうした流れの一環だった。
ところがそこまで言い切っておきながら、禁止はやっぱり緩めることにしたらしい。
At the request of our High Tech companies, and President Xi,I agreed to allow Chinese company Huawei to buy product from them which will not impact our National Security. (トランプ大統領のTwitter(*2)より)
われわれのハイテク企業と習主席の要請により、われわれの国家安全保障に影響しない製品を、中国企業のファーウェイが購入するのを許すことにした。
悪意や善意というのは結局のところ、主観でしかない。だから政治の都合で簡単に変えられるらしい。でもmalwareはプログラム。一度放たれてしまったら、そんな政治判断はしてくれないのでご用心を。
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