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Windows 1.0日本語版のレビュー記事を書いた話立ちどまるよふりむくよ(2/2 ページ)

» 2019年07月11日 07時00分 公開
[松尾公也ITmedia]
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 僕のWindows 1.0レビューはこう始まる。

現在PC-9801をアプリケーションのほとんどはMS-DOSという基本ソフトを使って動かしている。これはコンピュータ本体に代わってデータの受け渡しやファイルの管理作成を統一的に行うソフトウェアなのだが、アプリケーションを実行するためには、かなり細かな命令まで覚えて、英文でタイプしなければならないと言う煩わしさがある。作業の途中でデータを入れるファイルが足りなくなったときに、新しいフロッピーディスクを使うためには、一旦MS-DOSに戻って、ディスクの初期化を行わなければならないなど、その操作は全くのコンピュータ素人には難しい。今コンピュータのアプリケーションを使って仕事をしようとすれば、MS-DOSの最低限の命令くらいは覚えていなければならないのである。

photo Windows 1.0日本語版のレビュー記事

 当時のソフト操作のめんどくささがお分かりいただけただろうか? ほとんどの人はそういった問題を自覚していなかったために、あえて書いておく必要があったのである。

 続いてWindows自体の仕組みについて解説。

ここではすべての操作をマウスによって行うことができる。MS-DOSからMS-WINDOWSを立ち上げるとフロッピーディスクのアイコン(絵)が出てくるので、それをクリックすると、ファイル名がすらすらずらずらと出てくる。使いたい機能を持ったファイルをその中から選び出し、マウスでクリックして選択する。MS-WINDOWSのアプリケーションのフロッピーディスクの中にはメモ帳、簡易データベース、スケジュール管理、時計、ターミナルエミュレータ、オセロゲームといったアプリケーション(応用ソフトウェア)が入っており、マウスの操作だけでそれらのアプリケーションの間を行ったり来たりすることができる。これらのアプリケーションは画面をいくつかに分割して同時に動かすことができ、そのデータはクリップボードという受け渡しのための領域を通して、MS-WINDOWS内の別のアプリケーションに送ることができる。

 新聞社系媒体なので、OSは(基本ソフトウェア)で、アプリケーションは(応用ソフトウェア)と、今となっては逆に分かりづらい注釈を入れている。そしてアイコン(絵)である。

 あとは、Windows内の個別の機能について解説している。「ターミナルエミュレータはPC-VAN、アスキーネットなどのネットワークと接続し、更新した結果をファイルにして印刷したり、メモ帳などで作成した文章を送ったりするためのソフトウェアである」といった具合だ。インターネットが普及する前、パソコン通信の全盛期の話。

 「いくつかのアプリケーションを同じ画面上で同時に動かすことも可能だ。例えばメモ帳とデータベースのアプリケーションを同時に表示して、メモ帳に書いたものをクリップボードを通してデータベースのソフトに読み書きした読み込ませるといったことができ、複数の作業を並行して行う。机の上での実際の作業に近い操作感が実現する」と、このレビューは締めくくっている。

 この右ページには、デジタル・リサーチのGUI環境「GEM」のレビューも掲載されている。これも自分の文章だ。

日本語版GEMは(MS-WINDOWSもそうだが)基本的にディスクの抜き差しの煩わしさをはじめとする、本来の仕事とは関わりのない作業からユーザーを解放することを目的としたものだ。このうち複数のアプリケーションを使うならば、できればハードディスクを用いて、より円滑な作業環境を実現していただきたい。

 WindowsはGEMと比べるとレベルが低すぎて、悪口だらけになりそうだった記憶があるのだが、書かれているもの(編集されたもの)を読むと、フラットに書かれているように思える。Windows 1.0はオーバーラッピングウィンドウが実現されておらず、タイリングウィンドウで、利用可能なメモリも少なく、すぐフロッピードライブがガッチャンコガッチャンコと動く。一般の人たちは知らないとはいえ、先進的なユーザーはMacintoshも知っているし(このムックにはMacintosh Plusの広告も掲載されていた)、SunやDEC、Apollo、Silicon Graphicsなどからウィンドウシステムを実装したUNIXワークステーションも出ている。X Window端末も普及し始めた頃だ。そんな中でのこのGUIに「なんで今頃……」とがっかりしたのだ。

 だが、GEMはあまりにMacに似すぎており、Appleから「ルック&フィール訴訟」を起こされ、その後しぼんでしまう。Microsoftはこの1987年にWindows 2.0をリリース。ようやくオーバーラッピングウィンドウを実現する。

 ソフトバンク(当時は日本ソフトバンクといった)の月刊誌「パソコンマガジン」(米PC Magazineの日本版)に入ってすぐに、出たばかりのWindows 3.0をCompaqのPCでいち早く動かし「これで大きく変わるぞ」と編集部がどよめいていたのが1990年だ。

 その後、Windows 3.1、95とバージョンを上げるごとにMacに似せ、機能を強化してくる。一方でAppleはOSの現代化プロジェクト「Pink」開発に失敗し、最終的にはプリエンプティブマルチタスキングを実現するためのカーネルとして、Windows NT、BeOS、Solaris、NEXTSTEPの中から選ばざるを得ない状況にまで追い込まれた。

 そこからスティーブ・ジョブズがNEXTSTEP込みで復帰し、Appleを復活させる。

 MacはSystem、Mac OS、macOSと表記を変えていき、NEXTSTEP由来のOS Xは次のCatalinaでメジャーバージョンが15番目になる。

 Windowsは1、2、3からいきなり95、98、2000へと増えた後、数字ではないXP、Vistaと続いて、再び数字に戻って7、8、10となった。

 この間、消えていったOSたちは多いが、WindowsとMacは残り続けている。その初期の姿に触れ、テキストの形で残すことができたのは幸いだ。


 ストレンジャー・シングズはシーズン3で完結せず、さらに続いていきそう。シーズン5になって舞台が1987年まで進んだなら、日本未公開の「Windows 1.11」アプリが日本語ローカライズされて我々が使えるようになるかも。

 あ、ここまで書いてて今頃気づいたんだけど、なぜ本当のバージョンである1.03ではなくて、1.11なのかが分かった。

 イレブンのことか!

photo 中央の少女が「イレブン」
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