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最新鋭ドライブシミュレータに見たバーチャルとリアルの曖昧な境界スマートモビリティーで激変する乗り物と移動のかたち(1/2 ページ)

» 2019年07月26日 08時49分 公開
[野間恒毅ITmedia]

 昨今、AI(人工知能)やVR(仮想現実)といった言葉を見ない日はない。1990年代には一部の技術系やSFファンのものであった概念が、コンピューティングの進化により現実のものとなってきている。

 今年は映画「マトリックス」公開から20周年だ。22世紀を舞台にする「マトリックス」の世界で人はAIに支配され、脳内で作られたVR世界の中に生きていた。現実世界ではAIに攻撃され、絶滅の危機に瀕している一方、バーチャルな世界「マトリックス」の中で人は21世紀初頭のニューヨークを舞台に経済の繁栄と飽食を享受し、まさに夢見心地で眠り続けているのである。

 「マトリックス」での命題の1つに、不都合なリアルワールドと都合のいいバーチャルワールド、どちらを選ぶか、がある。AIに対抗するレジスタンス組織に参加するメンバーがいる一方で、裏切ってAI側につくメンバーもいることが、リアリティに近いバーチャルはリアルを超える魅力があるということを示している。

著者プロフィール

野間恒毅(ノマツネタケ):ブロガー&ライター、ライダー&ドライバー。ソニーでVAIO用ソフト、VR、ネットサービスを企画開発。ニューヨーク大学留学でIoTを学んだ後、ブログソフト会社に転職。その後起業しWebシステム、スマホアプリ開発を手掛ける。現在自動操船ヨットのスタートアップを立ち上げ、漁業のスマート化に取り組む。

 自動車がリアルワールドでフィジカル(物理的)な存在であることは明らかだが、利便性を持つ半面、常に事故の危険性や環境問題などネガティブな要素と隣り合わせであるのも確か。買うのは誰でもできるが、運転するのに免許が必要なのもこの危険性故だ。

 さて1980年代後半、日本がバブル景気に突入していく中、人気となったのがドライブゲームである。現実に体験はできないF1レースをモチーフにした「ファイナルラップ」、そしてオープンのフェラーリでアメリカ西海岸をドライブする「OUTRUN」は人気となった。

 特にOUTRUNは体感ゲームと呼ばれ、運転席となる筐体ごと動くことで横Gを感じるのがエポックメイキングであり、いわばドライブシミュレータ的要素を兼ね備えたものであった。当時免許を持っていなかった私もこのOUTRUNにはまり、毎日のように100円玉を投入して西海岸のドライブを楽しんだものであった。

photo OUTRUNの筐体

 OUTRUNは単純に左右に動くだけの1軸であったが、その後体感ゲームは前後左右、上下と2軸、3軸制御と進化していく。また、VRがブームになったことで様々なライド系エンターテインメントでも同様の仕組みが取り入れられていく。産業界ではフライトシミュレータが高いコストをかけ、複雑かつ大規模なシステムを構築しているのは周知のことだろう

 航空会社が高価なフライトシミュレータを導入するのは、実機で練習するには危険すぎるためである。そうであれば同じく危険を伴う自動車がシミュレータを導入するのは自明であろう。

 時代は移り変わり、ドライブシミュレータの性能は向上した。メーカー各社は性能の高いドライブシミュレータを導入することで、開発期間の短縮、コストの圧縮はもちろんリアルワールドでは危険を伴う「飛び出し」といったシーンを再現するなどし、よりよい自動車開発につなげている。

 そんな中、日産自動車がもつ最新鋭の「ドライビングシミュレータ」を取材する機会を得たので詳しく紹介したい。

最新スペックの日産「ドライビングシミュレータ」

 コックピットをまるごと入れたフライトシミュレータのように実際の車両、スカイラインをドーム内に入れ、360度フルスクリーンで情景映像を投影、ルームミラー、ドアミラーは液晶画面で表示することで、視界すべてがCGで作られたバーチャルワールドで構成される。

photo 「ドライビングシミュレータ」全景(筆者撮影)
photo ドーム内(筆者撮影)
photo 資料提供:日産自動車

 ドームは6本のアクチュエータで支えられXY軸中心にそれぞれ±15度、Z軸を中心に±160度回転、Z軸方向に±0.25m移動、約0.9Gの加速度を再現する。圧巻なのはXY方向のレールで、X方向15m、最大加速度は0.4G、Y方向はなんと45mもレールがあり最大加速度は1.2Gにも達する。これは日産GT-Rの最大加速に匹敵するという。これはレーシングテクノロジーを応用し、筐体を徹底的に軽量化したためだ。

 これだけの規模、性能のドライブシミュレータは世界でも類を見ない。レールの長さだけなら他社にも同規模のものがあるが、ここまでの機敏な動き、最大加速度は出ていないという。総合すると、現時点で世界トップの性能といっていいだろう。

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