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最新鋭ドライブシミュレータに見たバーチャルとリアルの曖昧な境界スマートモビリティーで激変する乗り物と移動のかたち(2/2 ページ)

» 2019年07月26日 08時49分 公開
[野間恒毅ITmedia]
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「ドライビングシミュレータ」を実際に体験してみた

 これまで様々な自動車に試乗、体験してきたが、この規模のドライブシミュレータは初の経験である。ドームに収まる真っ黒なスカイラインは実車同様。それもそもはず本物のスカイラインをぶった切っているためで、外からはシミュレータであることを多少意識するが、乗り込むとまったく違和感がなくなる。

 インタフェースは実際のクルマと同等でエンジンスタートボタンを押せば「キュルルル、バルン」とセルモーターとエンジン音が響く。360度フルスクリーンに映し出される情景はグランツーリスモなど最新ゲーム機と比べるとあまりにシンプルで素っ気ない印象を受けるが、それでも解像度不足などで没入感が阻害されることもない。

photo 運転席(筆者撮影)

 アクセル、ブレーキのペダルのフィールはあまりに軽く、実感が沸きにくいものであるが、逆にステアリングフィールはまさに実車そのもの、手応えが実にリアルである。このステアリングに呼応してロール、横G、ヨーモーメントが発生し、走れば走るほどリアリティが増してくるのである。

 特に5車線の高速レーンチェンジでのGのかかり方は実車さながら。試しに大き目に振ってみたが、最大で0.5Gほどかかったようだ。これも最大1.2Gまで出せる「ドライビングシミュレータ」ならでは。

 S字コーナーが連続するワインディングコースではサスペンション設定を変更することで、その運転特性をすぐさま比較することが可能だ。リアルワールドであればいちいちピットに戻り、サスペンションを交換し、再び出てという作業時間が必要な上に、テスターも以前のフィールの記憶が曖昧となっているため比較するのが難しい。しかしドライブシミュレータであれば瞬時に切り替えることができるため比較するのは容易で、我々のような専門職ではない人間であっても、切り替え前後でその味付けの違いがわかった。特に数値にあらわしにくい「感性性能評価」の部分でのメリットは大きい。

 その他にも飛び出しといった危険回避など実際のリアルワールドでは再現しにくいシーンも、シミュレータであれば実験しやすい。インパネのユーザーインタフェースの良し悪し、視点がどう動いているかなど「人間工学」に基づいた試験や評価もできるという。

リアルとバーチャルのはざまに

 冒頭で、映画「マトリックス」での命題の1つに、不都合なリアルワールドと都合のいいバーチャルワールド、どちらを選ぶかがあると述べたが、この「ドライビングシミュレータ」はまさにその命題を解決する1つの方策である。リアルワールドでは不都合になる危険な試験は、都合よくバーチャルワールドでやればいいからだ。バーチャルワールドであればどれだけクラッシュしても問題なく、何度でもやり直せばいい。コストもかからないし、修理時間もゼロだ。

photo コントロールルーム(筆者撮影)

 このバーチャルワールドは「マトリックス」と違い、AIではなく人間、エンジニアが制御している。人間には意思があり、その目的は安全でドライビングプレジャーのある自動車作りである。

 今後自動運転技術が進化し、最終的に運転はAIがほとんど行うものになる時代がくるかもしれない。それでも運転する楽しみ、ドライビングプレジャーは決して失われない、失ってほしくないと願う。その時さらに感性性能が重要になってくるが、それはバーチャルではないリアルでフィジカルなものだ。バーチャルとリアルが共存し、明るい自動車の未来を作ってほしい。

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