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「社会との繋がり持ちたい」 プレゼン音声読み上げソフトを自ら開発したALS患者に話を聞いてきた(1/2 ページ)

» 2019年08月20日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 全身の筋肉がだんだんと痩せていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を患ったれいわ新選組の舩後靖彦議員の活動に注目が集まる中、パソコンを駆使し、文字入力はもちろん、PowerPointで音声付きのプレゼンを行うALS患者に出会った。自ら開発したプレゼンテーションシステムとAWSのテキスト読み上げサービス「Amazon Polly」を連携させることで、健常者にも劣らぬ見事なプレゼンを披露してくれた。

 システムを開発したのは、高野元(はじめ)さん。2014年にALSの告知を受け、現状、頭脳は明晰なれど、ALSの症状である運動機能の低下や、誤嚥防止手術のため発語もままならない。ただ、視覚や聴覚機能は維持されていることもあり、今回の取材は、筆者の口頭でのインタビューに高野さんがパソコンに文字入力して答えるという筆談形式で進めた。

photo 高野元さん。1965年生まれで現在、創発計画 代表取締役。ブログ「gentak.info - ALS患者高野元の日常と思考と回想」で情報発信している

 高野さんは、キーボードを打つなど、健常者のようにパソコンやスマートフォンの操作ができない。そのためパソコンへの文字入力は「Hearty AI」という視線入力ソフトを利用する。モニター画面下部にセットした入力装置(Tobii Eye Tracker)が視線を検知しカーソルが動く。画面上の見つめた位置にカーソルが移動する仕組みだ。

photo モニター下の黒い棒が視線をトラッキングする装置「Tobii Eye Tracker」。アマゾンで2万円程度で購入可能
photo 「Hearty AI」のソフトウェアキーボード。Windowsの小さく表示されたGUI(ボタン等)を操作する際は、画面を拡大することもある

 ソフトウェアキーボードの入力したい文字に視線をあわせるとカーソルが追従するのでそこでクリックする。ただし、「マウスボタンを押す力がないので、右手の甲に貼ったピエゾ素子(圧電センサー)が関節のわずかな動きを検知してクリック信号を送信」(高野さん)するという。日本語入力システムは「Google日本語入力」を利用している。理由は「語彙が常にアップデートされているから」だという。

photo マウスは使えないのでクリックは、手の甲に貼り付けたピエゾ素子が関節のわずかな動きを検知してクリック信号を送信する
photo ピエゾ素子を接続するためのパソコンとのインターフェイス機器

 文字入力だけでなく、Windowsや他のソフトウェアの操作も普通に行える。つまり、視線でカーソルを動かし関節の動きでクリックするわけだから、健常者がマウスを操作するのと何ら変わりはない。しかも、高野さんは、驚くほどの速度で操作する。カーソルの動きだけ見ているとむしろ通常のマウス操作より速いくらいだ。視線での操作について「私は習得に3カ月かかった。中にはどうしても慣れることができず、諦めてしまう人もいる」そうだ。

 目の細い人でも、機械はちゃんと視線をトラッキングしてくれるのだろうか。「私は目が細いほうだが、この通り問題ない。ただし、笑うと追えなくなる」と笑う。

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