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» 2019年08月26日 07時00分 公開

Apple Digital Masters、AACでも「24bitスタジオマスターと区別つかない」は本当か?(2/3 ページ)

[山崎潤一郎,ITmedia]

ディザリング処理を回避することで高音質を実現

 では、なぜ、16bit/44.1KHzのCD用フォーマットを介さなければ、理論上音質が向上するのだろうか。キーワードは「ディザリング」だ。音源制作におけるディザリングは、24bitのマスター音源をCD用の16bitに変換する際に発生するデジタル処理上の誤差(エラー)情報から来るノイズを聴感上で軽減する処理のこと。CD用の音源を作成する際、マスタリングソフトなどから書き出しを行う段階で専用プラグインを用いディザリング処理を実施する。

photo 定番ディザリングプラグインであるApogee Electronicsの「UV22HR」の画面。設定などは不要でマスタリングソフト等から書き出す際、最終段階に挿入する

 24bit音源を16bit化した際に発生する誤差ノイズが音質に与える影響が意外とばかにならない。ただ、ノイズと言っても、「雑音」として明確に聴こえるものではない。解像度の高い再生環境で大音量にしないと聴き分けられない程度のノイズだ。とはいえ、原音に対し確実に影響を与える。例えば、ホールの響きが豊かなアコースティック楽器の音源などは、響きの透明感や空間的な広がりが後退した「くもった」印象の音になる。極小レベルの「ノイズ」が悪さをするわけだ。

 そこで、ディザリング処理によって、そのような音質の劣化を防ぐために音源とは異なるある種の信号(低レベルのノイズ)を意図的に付加することで、エラーを補完し、聴感上の劣化を軽減するわけだ。原音の音質が向上するわけではないのだが、人間の耳と脳には劣化が軽減されたように感じる。

 ただ、音源とは異なる余計な情報(ノイズ)を付加するわけだから、ティザリングされた16bitのWAVファイルは、純粋に音源だけのクリーンな信号を格納したファイルとは言い難い。それを、AACにエンコードする際には、付加した分、余計なリソースを消費することになり、エンコード済みファイルの音質に影響が及ぶ。そこで、Apple Digital Mastersは、16bit変換時のディザリング処理のプロセスを省き、ハイレゾ音源から直接AACにエンコード処理することで、エンコード時の音質への影響を最小限に止めようという考え方なのだ。

 Apple Digital Mastersの作業プロセスには、なるほどと思わせる工程が設定されている。24bitのハイレゾ音源のファイルをいきなりAACに変換するのではなく、まず32bit float(浮動小数点数)のCAF(Core Audio Format)コンテナに変換する中間処理工程がそれだ。32bit float処理を端的に表現すると「ダイナミックレンジが広く、格段にきめ細かな表現を実現可能」となる。その効用から、サンプリングレート変換時のエイリアシング(折り返し雑音)またはクリッピング(レベルオーバーのひずみ)の抑制が可能だ。

 そして、この32bit floatのCAFファイルをAACに変換する仕組みなのだ。つまるところ、Apple Digital Mastersというのは、AACにエンコードする工程において、その源流から河口までの全プロセスで、理論上、音源に各種処理によるノイズを加えることなく、信号をクリーンな状態に保ったまま、進めることができる、というマスタリング手法ということになる。

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