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Apple Digital Masters、AACでも「24bitスタジオマスターと区別つかない」は本当か?(1/3 ページ)

» 2019年08月26日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]

 Appleが、iTunes StoreやApple Musicにおける音楽コンテンツの音質向上施策を打ち出してきた。レーベルやアグリゲーター向けに「Apple Digital Masters」と名付けられた、マスタリングスキームの提供を開始している。

 Apple Digital Mastersのワークフローとプロトコルに従って作成された圧縮音源(256KbpsのAACフォーマット)であれば、Apple Musicのストリーミング音源とiTunes Storeのダウンロード音源を「可能な限りマスター品質に近い形で配信が可能」(Apple Digital Mastersのホワイトペーパーより意訳)だというのだ。

 と、ここまで書いておいて、いきなりちゃぶ台をひっくり返すようで申し訳ないのだが、Apple Digital Mastersに相当する高音質のAAC音源はすでに2012年から「Mastered for iTunes」の名称で登場している。実のところ、今回、Apple Digital Mastersに看板のすげ替えを行っただけなのだ。これまでは、iTunes Storeの対応済み音源のアルバムページに記載されていた「Mastered for iTunes」のロゴが、現在は全て「Apple Digital Masters」に置き換わっている。

 ただし、Apple Digital Mastersのワークフローを実現するツール(Appleが無料で提供)は、「Mastered for iTunesの登場当時よりよくなっている」(マスタリングエンジニア)そうなので、単なる「看板の挿げ替え」以上の音質向上効果があるという見方もある。

音質が向上する秘密

 では、Apple Digital Masters(Mastered for iTunesも考え方は同じ)によって作成されてAAC音源は、どのような仕組みで音質の向上が図られているのだろうか。その過程を簡略化すると以下のようになる。

従来のプロセス

マスター用の音源(16, 24bit/44.1〜192KHz)

CDマスター用のWAVファイル(16bit/44.1KHz)、またはCDDAメディアを作成

専用ツール「iTunes Producer」で上記WAVファイル(またはCDDA)をロスレスオーディオファイルに変換してAppleのサーバに送信


Apple Digital Masters(Mastered for iTunes)のプロセス

マスター用のハイレゾ音源(24bit/48〜96KHz)

Apple Digital Masters専用ツールでエンコード

iTunes Store用のAAC(256Kbps)


 Mastered for iTunesの登場以前は、CD用のマスター音源(16bit/44.1KHz)ファイルから配信用のAACをエンコーディングする場合がほとんどだった。アルバムによっては、WAVファイルからではなく、CDDAからリッピングすることもあった。Appleと配信契約を交わしたレーベルが使用するソフトウェア「iTunes Producer」は、WAVファイルとCDDAからのアップロードに対応している。

photo iTunes Producerの画面。楽曲名やアーティスト名などメタデータを入力し、WAVファイルからロスレスオーディオを作成してアップロードする

 その一方で、Apple Digital Mastersは、16bit/44.1KHzというCD向けのフォーマットを経ることなく、マスター用のハイレゾ音源から直接配信用のAACファイルを作成する。これにより理論上の高音質化を実現しているわけだ。

photo Apple Digital Mastersは、ファイルをドラッグ&ドロップすると処理を実行するAppleScriptの「Droplet(ドロップレット)」として提供されている。他に、「ターミナル」Appからコマンドラインで実行する方法もある
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