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勘定系システムにGoogle Cloud――ふくおかFGのネット銀行が挑戦を決めた理由

» 2019年10月02日 17時57分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 ふくおかフィナンシャルグループ(FG)が、2020年度中をめどに開業予定のインターネット専業銀行「みんなの銀行」の勘定系システム基盤に、Google Cloud Platform(GCP)を採用することを決めた。あくまでネットバンクでの採用で、傘下の福岡銀行などの既存システムへの導入は見送るが、発表を受けてネット上では「ミッションクリティカルな勘定系システムにクラウドを採用するとは恐れ入った」「チャレンジに期待」などと高評価する声が上がっている。

 システム開発を担当するふくおかFG傘下のゼロバンク・デザインファクトリー(ZDF)の横田浩二代表取締役は「(クラウドの導入は)2017年ごろから構想していた」と明かす。その背景には、2〜3年ほど前にスマートフォンアプリなどを開発した際の苦悩があるという。GoogleとふくおかFGが10月2日に開いた記者会見で、横田氏がクラウド導入に踏み切る経緯を語った。

photo 左からグーグル・クラウド・ジャパンの阿部伸一代表、ゼロバンク・デザインファクトリーの横田浩二代表取締役(兼 福岡銀行 取締役副頭取、ふくおかフィナンシャルグループ 取締役執行役員)

スマホアプリ開発時の苦労を生かす

 横田氏は、みんなの銀行のコンセプトとして(1)ユーザーの要望を受け、素早く新サービスや機能を追加する、(2)ユーザーのデータを分析し、金融商品のレコメンドなどを行う、(3)外部の事業者と連携してサービスを生み出す「BaaS」(Banking as a Service)型ビジネスを実現する──という方針を掲げる。

 「単なるネットバンクではなく、デジタル時代にふさわしい銀行を作る。ローコストのオペレーションによって、高い金利で預金を集め、低い金利でローンを提供する『銀行版LCC(格安航空会社)』を作りたいわけではない」(横田氏)

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 こうした構想に至った背景には、ふくおかFGが16年に設立したデジタル戦略子会社「iBankマーケティング」での経験があるという。

 同社は、福岡銀行などの口座開設者向けにスマホアプリ「Wallet+」をリリースし、口座残高の確認機能や、ロボットアドバイザーを使って資産形成ができる機能などを提供している。だが、「(ユーザーの声を受けて)アジャイルでコンテンツを追加すると、銀行の既存システムからAPI経由でデータを取得するのは苦難が多かった。いっそのこと、フルスクラッチでシステムを作り直したほうがいいのではと思うほどだった」と横田氏は振り返る。

 そうした経験が、みんなの銀行の勘定系システムの開発に生きているという。今回のシステム開発では、預金、為替といった個々の金融機能を独立したサービスとして開発し、APIなどで連携して1つのアプリケーションにする「マイクロサービスアーキテクチャ」という手法を採用する。マイクロサービスの稼働に適している点が、GCP導入の決め手の1つになったという。

 一方、横田氏は「当然、24時間365日止まらないシステムを維持できるかどうかは、極めて重要な問題と考えている。(Google Cloudの協力のもと)さまざまな形で利用するリージョンを分けるなど、可用性を確保したい」と強調した。

 「(キャッシュレス決済の普及などに伴って)かつての恐竜のように、銀行は絶滅するのかといわれるが、われわれは進化して生き延びたい。そのためには文化・組織の変革を伴いながら、テクノロジーを活用し、自社のビジネスモデルを変えていく必要がある。銀行を再定義する」(横田氏)

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