日本アイ・ビー・エムと山形大学は11月15日、AIを活用してペルーのナスカ台地を調査し、新たな地上絵を1点発見したと発表した。発見済みの地上絵のデータを機械学習したAIに空撮写真を読み込ませ、未発見の可能性がある地上絵の候補を抽出。研究グループがそれらを目視で選別し、現地調査の末に発見した。
見つかった地上絵は、全長約5メートルで、2本足で立ち、棒のような物を持つ人間を描いたもの。台地の石を面状に除去して描かれた。制作時期は紀元前100年〜紀元後100年ごろ。同大によると、道しるべとして使われた可能性が高いという。
調査は、2018〜19年に実証実験として実施した。AIの学習に使用した教師データの量は「指で数えられるほどわずか」(日本IBMの担当者)だったというが、地上絵に共通するパターンの取得に成功したという。このAIに空撮写真を分析させ、500点ほどの候補を抽出した。
使用したAIは、米IBMの「IBM Watson Machine Learning Community Edition」で、AI用サーバ「IBM Power System AC922」上で稼働させた。
その後、山形大の坂井正人教授らの研究グループが目視で確認。既知の地上絵や自動車が走った跡などを除去すると、未知の地上絵と思われる候補が見つかった。19年に現地調査を行い、地上と上空から観測した結果、新たな地上絵であることが分かったという。
坂井教授は「今回発見した地上絵は、よく知られているハチドリの絵からそれほど遠くない場所にある。われわれがよく調査していた地域だが、そこに絵があることは分からなかった。大きな成果だと考えている」と語った。
「地中から神殿や土器などを発掘する一般的な考古学とは異なり、すでに地上に現れているが、どこにあるのか分からない地上絵を探すのがわれわれの研究だ。従来は航空写真から発見したものはごく一部で、歩いて発見したものが大半だった。AIを活用すると、こうしたプロセスに要する膨大な年月を短縮できると感じた」(坂井教授)
山形大はAIを活用した調査の他、研究グループが独自に調査した結果、人間、鳥、魚、サル、キツネなど142点の地上絵を新たに発見したことも発表した。全長100メートル超のものもあり、内部で儀礼が行われていたことが分かったという。
ナスカでは、市街地の拡大に伴って地上絵の破壊が進んでいる。坂井教授によると、過去にナスカで発見された全ての地上絵の分布状況をまとめたデータは存在しないため、的確な保護が難しい状況だという。
IBMと山形大は、実証実験の成功と、地上絵の破壊が進んでいる状況を踏まえ、9月に約2年間の学術協定を締結。ビッグデータ解析用プラットフォーム「IBM PAIRS Geoscope」を活用し、地上絵の分布状況を把握する取り組みを始めている。
今後は同大の過去10年分の現地調査の結果をAIに学習・分析させつつ、現地調査を並行して行い、ナスカ台地全体を網羅した地上絵の分布図を作成する計画だ。同大は分布図を参考に、ペルー文化省と共同で地上絵の保護活動を進めるという。
日本IBMの久世和資執行役員(最高技術責任者)は「考古学にAIを導入する取り組みは初めてだが、チャレンジしていきたい」と意気込んだ。
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