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なぜ中国メーカーはニッチな“超小型ノートPC”を市場に出せるのか? 新製品ラッシュの2019年を振り返る(1/2 ページ)

» 2020年01月11日 07時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

 2019年は「UMPC」(Ultra Mobile PC)と呼ばれる超小型ノートPCの新製品が立て続けに登場した年だった。以前の製品はクラウドファンディングで企画が立ち上がり、そのプロジェクトが次々と成功して出資者の手元に届く──という流れだったが、最近は日本向けの正式販売代理店がこれら製品を市場に流通させることで、クラウドファンディング出資者でなくても店頭やオンラインショップで「普通に購入できる」ようになったことが大きなポイントだ。

photo 「GPD Pocket2」(GPD公式サイトより)

 今回は19年に登場した超小型ノートPCの各モデルを振り返りながら、その仕様と変化を改めて確認しつつ、なぜここにきて超小型ノートPCの動きが活発になったのか、今後この活況は続くのかを考察してみたい。

超小型ノートPCの定義とは

 振り返りの前に、この記事に登場する超小型ノートPCについて改めて定義しておきたい。というのも、「Surface」シリーズのような2 in 1 PCや「iPad Pro」シリーズのようなタブレット、そして「Androidタブレットと外付けキーボード」といった組み合わせも超小型ノートPCとイメージして分類する人も少なくないからだ。この記事で指す超小型ノートPCは、以下の条件を満たすものとする。

  • ハードウェアのQWERTYキーボードを搭載する
  • サイズ8型台までのディスプレイを搭載する
  • OSとしてWindowsを導入する

 この条件を満たすデバイスとして、2019年に日本市場で流通した製品は次の通りだ。

中国Shenzhen GPD Technology

  • GPD Pocket 2
  • GPD MicroPC
photophoto 「GPD Pocket 2」(写真=左)と「GPD MicroPC」(写真=右)

中国One-Netbook Technology

  • OneMix2S
  • OneMix3
  • OneMix3 Pro
photo 「OneMix2S」
photophoto 「OneMix3」(写真=左)と「OneMix3 Pro」(写真=右)

中国CHUWI

  • MiniBook
photo 「MiniBook」

超小型ノートPCはクラウドファンディングだからこそ実現した

 まず注目したいのは「超小型」という“独特な立ち位置の製品”を各メーカーが市場に続々と投入できた理由だ。物理的なQWERTYキーボードを搭載してPCと共通の汎用OSを導入したハードウェアは過去にも存在していて、多くのユーザーが使っていた時代があった。90年代の「HP95LX」「HP100LX」「HP200LX」と続く一連のシリーズや、「ThinkPad 220」から始まって「ThinkPad 230Cs」を経て「Palm Top PC 110」へと至る流れだ。

photo A6サイズの「Palm Top PC 110」

 しかし、その後はモバイルコンピューティングの主役がクラムシェルスタイルの軽量ノートPCに移行し、上で挙げた超小型ノートPCの先祖たちは個人向け市場から絶えてしまう。

 ただ、少数ながらも超小型ノートPCを熱望するユーザーは確かに存在する。中には独自開発に取り組んだユーザーグループもあったが、試作のシステムボードはできたものの、コストなどの問題で断念せざるを得なかった。クラウドファンディングという仕組みが生まれる、はるか前の話である。

持ち運べるノートPCといえば……スペックは似たり寄ったり

 現代のモバイルコンピューティングは、デザインは個性的だが  仕様においては“意外”と画一的だ。各メーカー最軽量クラスのノートPCでいうと、ディスプレイサイズは13型前後、重さは1キロ前後、ボディーサイズはA4ファイルサイズで厚さ17ミリ前後にほとんどのモデルが当てはまる。

 そういう意味では、モデルとデザインは数あれど、仕様的には「寡占」が進んでいる、もっといえば、個性的なモデルが存在できない時代となってしまった。

 これにはメーカーの収益構造も影響している。価格競争が進んだノートPCの開発と販売において、競合製品より少しでも価格競争力をつけるには、1台当たりの利益を減らして販売価格を下げ、その代わり販売台数を増やす必要がある。そのためには「個性的な製品」ではなく「多くの人が受け入れる最小公倍数の製品」を用意しなければならない。このような状況において、一人一人は熱烈なれど圧倒的にユーザー数が少ない超小型ノートPCを従来のPCベンダーが開発して販売するというのは難しくなってしまった。

 しかし、クラウドファンディングの登場と普及、そして小ロット製造に対応できる工場(主に中国)の生産技術向上がこの状況を変えた。少数だが確実に購入が見込めるユーザーから資金を調達し、小ロット生産に対応する工場に発注するのだ。

 以前、小ロット生産に対応する工場の技術力は心もとなかったが、今ではまともに動くハンディデバイスも作れるまでに向上した。そしてこのようなプロジェクトを進める企業の規模は小さくても済む(企業というより個人的グループに近い場合もある)ため、販売量は少なくても採算が取れる。

 こうして「超個性的な超小型ノートPC」が商売として成り立つようになって、長年「使いたくないのにタブレットしか売っていないし」という(私のような)ユーザーが超小型ノートPCを手にすることができる時代となった。

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