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リストバンドは“魔法の鍵”──ウェアラブル端末が変える、テーマパークの姿テック・イン・ワンダーランド(2/4 ページ)

» 2020年03月02日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

 有名なアトラクションに「イッツ・ア・スモールワールド」があります。オリジナルのアトラクションはカリフォルニアのディズニーランドですが、その派生版が東京ディズニーランドに、そしてウォルト・ディズニー・ワールドのマジック・キングダム・パークに存在します。ウォルト・ディズニー・ワールド版イッツ・ア・スモールワールドが他と異なるのは、アトラクション最後のシーンです。

photo イッツ・ア・スモールワールドに用意したスクリーンに、ゲストの情報を反映

 白い服を身にまとった世界各国の子どもたちが、テーマソングを歌うシーンのあと、一瞬だけ「Goodbye」「Au revoir」「Auf Wiedersehen」といった各国の言葉が映し出されます。これ、よーく注意してみると、しっかりと来場者の名前も表示しているのです。実はボートに乗るゲストを個別に認識しているのです。

 このマジックバンド、電子マネー決済などでは近距離非接触でセンシングを行うのですが、同時に数メートル先からの遠隔センシングも可能なRFIDタグを搭載しています。このRFIDタグをボート単位でセンシングし、そこにいるゲストの情報を基に、映像や仕掛けをインタラクティブに変えているのです。

 RFIDタグは入庫確認、棚卸処理などで使われる事例が増えていますが、それをエンターテインメントとして活用しているのが、このイッツ・ア・スモールワールドの事例といえるでしょう。

ファストパスも写真も「デジタル」へ

 ウォルト・ディズニー・ワールドでは、アトラクション体験のための整理券ともいうべき「ディズニー・ファストパス」という仕組みがあります。東京のパークのものとは少し異なり、60日前に取得可能な「ファストパス+」として提供しています。これは紙ではなく、全てがデジタル。もちろん、マジックバンドを活用しています。

 ゲストがあらかじめスマートフォンなどで取得したファストパスを、マジックバンドに登録しておくと、アトラクションの入り口で「ピッ!」とするだけで搭乗できます。事前予約をしていなくても、スマートフォンを使って当日にファストパスを取得できますが、こちらもペーパーレスになっています。

photo 基本的にファストパスを取得するのはスマートフォンアプリ経由。パーク内にはキオスクもあります

 もう一つ、マジックバンドが変えるものがあります。それは記念写真です。

 ウォルト・ディズニー・ワールド内では、シンデレラ城や映画「アバター」の浮かぶ岩など、記念撮影をしたいと思わせる場所にカメラを持ったキャストがいます。もちろんゲストが持ち込んだカメラでも撮影してくれますが、カメラキャストは自身の経験から素晴らしい角度で記録を残してくれます。その情報はマジックバンドを通じ、スマホアプリを使って見られます。

 それだけではありません。最近のアトラクションには内部にカメラがあり、アトラクションに搭乗している途中で撮影してくれるサービスがあります。これまでであれば、ゲストが降りたところにあるディスプレイで自分が映った写真を探し、カウンターに出向いて注文していました。しかしマジックバンドがあれば、遠隔センシングの機能を使って、スマホで閲覧ができてしまうのです。知らぬ間に自分の写真が増えているので、もはや記念撮影のためのカメラは持ち歩く必要すらなくなってしまうのです。

写真だけではなく、こうした編集済みの動画すらも自動的にマジックバンドにリンクされます

 ウェアラブルデバイスは、統一されたテーマに沿って作られた非現実的な世界に、来園者を没入させるためには、不可欠な仕掛けになったといえるかもしれません。ディズニーもユニバーサルも、この点をしっかり理解した上で、テーマエリアとともに戦略を仕掛けているわけです。

魔法の裏側にある技術

 こうした魔法は、リゾートの予約時から始まっています。ゲストは、例えば「結婚式を挙げる」「記念日を祝う」「誕生日を祝う」など、ウォルト・ディズニー・ワールドに来園した理由を、ホテルの予約時にアンケートで答えています。この来園理由も、ゲストごとにしっかり把握しているのです。どんな活用方法が考えられるでしょうか。

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