米Appleが4月16日(日本時間)に発表した「iPhone SE」(第2世代)は、一言でいえば「iPhone 8」のボディーに「iPhone 11」が持つ機能の中から人気の高い要素を盛り込んだ製品だ。それでいて価格は64Gバイト版で4万4800円(税別、直販価格)なのだから、発表直後から話題になるのも当然だろう。
Apple製品の価格設定は発売時期の為替で大きく変動するが、過去を振り返ると発売当初に5万円を切っていたのは2010年6月の「iPhone 4」が最後。それ以降、価格は上昇を続け、19年発売の「iPhone 11 Pro」シリーズは10万円を超えてしまった。最上位モデルは15万円クラスだ。
しかも、第2世代のiPhone SEは、19年発表の「iPhone 11」シリーズと同じチップ「A13 Bionic」を搭載している。背面カメラは有効1200万画素の広角レンズ(F1.8)シングル仕様。iPhone 11と比べると超広角レンズがなく、ナイトモードが利用できないといった違いはあるものの、背景をぼかすポートレート撮影(深度コントロール)など処理能力を生かした撮影が楽しめる。
プロセッサの性能やカメラだけではない。例えば付属の充電器は最大18Wの急速充電にも対応。目に見えないところではA13 Bionicチップの「Neural Engine」が最新版であるため、機械学習処理を応用したアプリや端末機能も上位モデルと同じように動く。
ディスプレイなどの品質もiPhone 8から落とされた機能はなく、「3D Touch」が「Haptic Touch」(触覚タッチ)に置き換えられた程度の違いでしかない。おそらくiPhone史上最もお買い得な製品といえるだろう。
過去に販売されてきた低価格iPhoneは、いずれも型落ちのモデルか、世代が古いプロセッサを搭載したモデルだった。唯一の例外が初代iPhone SEで、今回は当時よりも上位機種の価格が上がっているため、初代iPhone SEの時を上回る値頃感といえる。
iPhoneが高価になった上、さらに総務省の方針もあって買い換え時に携帯電話キャリアの補助も受けられなくなった。そうした中で、なかなか端末の買い替えに踏み切れなかった消費者にとって、第2世代のiPhone SEは福音になるだろう。
一方、iPhone SEに(初代モデルが採用していた)4インチモデルのコンパクトなサイズ感、シャープなフォルムなどを求めていた人たちからは、第2世代モデルは「大きい。デザインテイストも求めているものではない」という声も上がっている。しかし初代iPhone SEが発売された頃と現在では、スマートフォンを取り巻く事情が大きく変化している。
あの頃のサイズに戻れない理由は、大きくは3つある。
まずはアンテナの設計だ。初代iPhone SEは国内向け2種類、グローバルでは3種類のモデム(通信モジュール)があり、地域や販売する携帯電話事業者ごとに作り分けていた。Appleのモデムは常に対応バンド数で世界最高を誇ってきたが、それでも当時は15バンド(LTEのみの数字)。現在のiPhoneが内蔵するLTEモデムは30バンドと倍増している。
より多くの周波数帯に対応するため、アンテナ設計や配置の難易度も高くなっている。NFCによる無線決済機能も、以前からあるType-A/Bに加えて電子マネー用のType-Fにも対応しなければならないという違いもあるだろう。
あるいは初代iPhone SEと同等のサイズの設計も不可能ではないかもしれないが、大きな困難が伴うのは確実だ。それは販売価格に跳ね返り、今回のような値頃感にはつながらなかった可能性が高い。
2つ目は熱設計の問題だ。
Appleの最新プロセッサであるA13 Bionicは、iPhone 11/11Proシリーズ向けに開発されており、当然ながらそれぞれのサイズに最適化されている。より小さな筐体に詰め込むとなれば、発熱を抑えるために性能を落とすなどの措置が必要になるだろう。その点、iPhone 11よりもコンパクトとはいえ、iPhone 8ならば大きくハードルは下がる。
非公式な情報では、第2世代iPhone SEはメイン基板のサイズや形状までもがiPhone 8と共通といわれており、メカ設計は変更していないと考えられる。もちろん、新規で開発するためにさまざまな検証は行なっているはずだが、可能な限り従来の設計を踏襲しているのだろう。なぜならSEを低価格にできる理由は、既存製品とメカ設計を共通にすることで、十分に洗練され、償却も進んだ生産設備を活用できるからという側面が大きいと推察されるからだ。
初代iPhone SEが発売された時、399ドルに設定されたベースモデルの原価予測が160ドルと極めて高いことが話題になった。そのような高い原価で製品化できた理由は、長く作り続けていたiPhone 5世代の設計を引き継ぐことで、開発費の一部や生産設備投資を抑えたからと考えるのが妥当だ。
難易度の高いアンテナ設計を初代iPhone SEサイズでやり直し、生産面の難易度も上がってしまうようでは本末転倒で、狙い通りのお買い得なベーシックモデルに仕上げることができない。逆にいえばコンパクトなiPhoneが作れたとしても、現状では高価になってしまう。このコストが3つめの理由だ。このような事情の中で、4.7インチ画面のiPhone 8は、iPhone 11世代に求められる性能を詰め込む上で、最もコンパクトな選択肢だったと思われる。
ちなみにiPhone 4から続いていたエッジの効いた本体デザインがiPhone 6で丸みを帯びたのは、画面サイズが大きくなった事も理由の一つだったと記憶している。サイズが大きくなったことで、手のひらになじむ形状にする必要があったのだ。
16年の発売以来、バッテリーを交換修理しながら使い続けているファンも多いiPhone SE(初代モデル)だが、今後あのサイズのiPhoneが登場することはおそらくないだろう。
【訂正:2020年4月21日11時45分更新 ※表現を一部改めました】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR