ソニー・インタラクティブエンタテインメントが次世代ゲーム機「プレイステーション5」(PS5)の外観や開発タイトルを発表した。ゲームコンソールは、5年は一線級の製品として、10年は現役で販売される商品。長期的なプラットフォームとしての役割が与えられるという点で、スマートフォンやタブレット、PCなどとは異なる設計が求められる。その商品設計から今後数年のトレンドがうかがえる。
かつてゲームコンソールにはPCとは全く異なるCPUやGPUが使われていた。その最も進化した形はPS3の「CELL Broadband Engine」だったが、PS4になるとAMDのプロセッサに置き換えられ、GPUのアーキテクチャを含めて、PCと類似するシステムへと移行した。ライバルの米Microsoft「Xbox」も同様だ。
ゲームコンソールはPCに近づいたが、決定的に異なるのはPCが自由に選べるプラットフォームでユーザーごとに異なるハードウェア構成であることだ。対してゲームコンソールは、たとえx64アーキテクチャでGPUもPCと共通だったとしても、サウンド系システムやゲームコントローラーなどの周辺機器、ユーザーインタフェースを含めて“フォーマット”として作り込まれる。ゲーム開発者は、ターゲットになるハードウェアが明確であるため、そのハードウェアを活用して最適なユーザー体験が得られるように作り込める。
これは以前ならCPUやGPU、メモリなどのハードウェアをしゃぶり尽くすという意味だったが、PS5ではその定義をさらに拡張した。PS5は、3Dグラフィックで構成される現代のゲームにとって重要な大量の“データ”を、データストレージであるSSDからCPU、GPUが使うメモリに至るまで一貫して広帯域につなぎ、ゲーム体験のレベルを引き上げようとしている。
ディスプレイとなるテレビ受像機は、新しいものなら4K解像度も当たり前になった。PS5では8K対応したことも話題になったが、本来のターゲットは「4Kで快適かつ最適な画質でゲームが楽しめること」だろう。
ここでのハードルは、なんといっても3Dグラフィックをレンダリングするためのモデリングデータとテクスチャーデータ。これらの容量を増やさなければ画質を高めることはできないが、大量のテクスチャーデータを保持し続けられるメモリを積むことはコスト的に難しい。
これまでのゲームコンソールなら、あの手この手でメモリを節約するのだが、PS5の場合はアプローチが違った。超高速SSDを用意し、システム全体のデータ転送速度に“最低保証”を付けることでゲーム中に必要なデータをローディングしても支障のない設計になっているという。
3Dグラフィックの質だけでなく、ゲームを楽しむ際のボトルネックとなっていた問題に対して正面から向き合ったのがPS5といえる。PCにも類似するアーキテクチャだが、こうしたゲーム体験の向上に特化した作り込みは、ゲーム専用機ならではの部分だ。
一方、こうした作りの中にあって、PS5には光学ドライブを搭載しない「デジタルエディション」が用意された。いや、むしろ光学ドライブを搭載しないモデルの方が今後は主流になる可能性が高い。というのも、光ディスクによるゲームコンテンツの流通は破綻しているといってもいい状態だからだ。
ゲームファンに対しては改めて説明するまでもないが、ゲームのパッケージを注文して自宅に届いても、最近ではすぐに遊べるケースは少ない。インストールし、大量のダウンロードとアップデートを行う。ゲーム開始までかなり待たされる。
これにはバグフィックスの他、ゲームのアップデートや追加コンテンツが含まれる。つまりディスクに“出荷マスター”を焼いて流通させたところで、ユーザーの手元に届くまでにアップデートや追加コンテンツが増えれば、結局はダウンロードで多くのデータを入れ替えることになる。
PS5は最大100Gバイトの容量を持つ3層BD(UHD Blu-rayと物理的には同じ)に対応しているが、ディスクから大量のデータを高速に読み出せるわけではない。光ディスクから情報を読み出しながら実行していた古き良き時代はとっくの昔に終わった。
PS5に搭載される容量825GBのSSDは、実転送速度で毎秒5.5GB。これはPS4の内蔵ストレージと比べて100倍程度速い。一方でUHD-BDの転送速度は128Mbpsにすぎない(等倍速の場合)。PS5搭載のドライブが何倍速か分からないが、回転速度を上げると騒音も大きくなるため、転送速度の向上は期待しにくい。
ビデオゲームを遊ぶ仕組みとして、光ディスクや昔のカセットが分かりやすいことは確かだ。しかし、人々の価値観は常に変化している。これからゲームに親しむ人たちは、生まれたときからネットがあって当たり前の世代だ。物理メディアを重視することはないだろう。
光ディスクドライブを最初に搭載したゲームコンソールは、1988年にNECが発売した「PC Engine CD-ROM2」だった。その後、セガが独自に拡張したGD-ROM(ドリームキャスト)やDVD-ROM(PS2)など、ゲームコンソールには最新の大容量光ディスクを採用するのが常識になった。しかしPS5という、今後10年を見据えたプラットフォームには光学ドライブのないモデルが用意され、コンテンツ流通における光ディスクの終焉を強く印象付けた。光ディスクのような物理メディアは今後、ますます存在意義を失っていくのだろう。
【訂正:2020年6月17日11時51分更新 ※誤記を修正しました】
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