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圧倒的なライブ感 サザンの無観客ライブは、withコロナ時代の新たな可能性を見せてくれた(2/3 ページ)

» 2020年06月26日 16時21分 公開
[岡田有花ITmedia]

 それが本物のライブに変わってきたのは、続く「希望の轍」にこんな歌詞が挿入された時だ。「大変な毎日をご苦労さま 今日は楽しくいきましょう〜♪」

 実際のライブでは、今の状況や会場の場所などを、歌詞に入れ込むことがある。この歌詞を聞いて筆者は、サザンは今ここでライブをしているのだ、会場のみんなと気持ちを共有しているんだ! と、ぐっと心が引き寄せられた。

画像 希望の轍の歌詞がwithコロナ版に。ライブ映像は、テレビのほかスマートフォンやタブレットでも見られる

 MCで桑田さんは、会場を見渡しながら「スタンド!」「アリーナ!」「センター!」と叫んだ。まるでそこに、観客がいるかのように。

 最後に、「画面越しのみなさまー!」とカメラ目線で呼び掛け、投げキッスした。と同時に筆者は、横浜アリーナにワープした。いや、実際は自宅にいるのだが、自分はまさにライブ会場にいるという感覚が、ここで決定的になった。

 桑田さんはこうも言った。「あなたは見えないけれど、みなさんの魂がここにあります」「みんなが見えるもん」「みんなの気持ちが、魂が」。そんな言葉とともに、筆者の没入感は上がり、テンションも上がっていった。

 演奏のボルテージも1曲、1曲と高まり、“観客との一体感”が高揚していった。その場に実際は観客はいないのだが、無観客のむなしさのようなものはまったく感じなかった。筆者は拍手し、手拍子し、拳を突き上げ、コールした。本編最後の「勝手にシンドバッド」では、リビングに置いてあるトランポリンに乗ってジャンプした。

画像 あって良かったトランポリン

 演出もすごかった。会場の椅子すべてにライトが設置され、曲に合わせて光った。客席の天井で巨大なミラーボールが回り、客席にダンサーが入って賑やかに踊り、客席と客席の間で炎のトーチが燃えさかった。カメラも縦横無尽に動き、さまざまな角度から見せてくれた。無観客だからこそできる演出は、配信ライブの新たな可能性を、これでもか、これでもかと見せてくれた。

 本編が終わり、アンコールがあり、ライブTシャツを着てメンバーが登場し……。それは確かにライブだった。ライブビデオではなく、ライブだった。

 演奏が終わると筆者は、放心状態になった。普通のライブを、ライブ会場で見た時と同じ感覚が襲ってきた。想像以上にライブだった。すごいものを見てしまった、これ以上の無観客ライブはあり得るのだろうか、とすら思った。

 エンドロールには、ライブのメイキング映像が流れた。とても多くのスタッフが、準備に準備を重ねて作り上げた様子が映った。コロナ禍でライブが次々と中止になる中、彼らにとっても、大型ライブを作る仕事は本当に久しぶりだったろう――最高の表情で仕事する彼らにそんなことを思った。

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