一向に解消されない人種差別に抗議して、世界中に広がった「Black Lives Matter」(BLM)運動。一時期のように大規模なデモや暴動は収まったものの、あらゆる方面で余波は続く。IT業界では今、「master」「slave」という用語に矛先が向けられている。
masterとslaveは、ハードウェアやソフトウェアの世界で、制御する側とされる側の役割分担を表す。制御する側がmaster、制御される側がslave。マスター、スレーブという片仮名にしてしまうと印象は薄いけれど、英語本来の意味は「主人」と「奴隷」。アメリカの歴史の闇に直結する。
英語圏でずっと昔から使い続けられてきたこの用語について、政治も経済も白人が中心になって動かしていた時代は、誰も疑問を持たなかったらしい。初めて公の問題として取り上げられたのは2003年。カリフォルニア州ロサンゼルス郡が職員からの苦情申し立てを受け、電子機器メーカーに対して「master/slave」を使わないよう要請した。
IT業界が自ら動くまでにはそれから10年以上かかったが、2014年にはDrupalやDjangoが、2018年にはPythonがこの用語の使用をやめるなど、言い換えの動きは徐々に広がっていった。当時のVICEの報道によると、Pythonの変更は、Red Hatの開発者が「多様性の理由から、奴隷制度を連想させるmasterとslaveの用語は、避けるようにした方がいい」と訴えたことが発端だった。
今回のBLM運動で、その流れは一気に加速する。Twitterは「われわれの会社としての価値観を反映していない」として、master/slaveなどを別の用語に切り替えると発表。GitHubは、これまで「master」と呼んでいたデフォルトのブランチの名称を「main」に変更した。
では、master/slaveの代わりにどんな用語を使うのか。Twitterは「leader/follower」「primary/replica」「primary/standby」を提唱している。「primary/replica」はDrupalなども採用。Pythonはslaveを「worker」「helper」に、master processは「parent process」に言い換えた。インフラ管理ツールのSaltStackのように、slaveの代わりに「minion」を使うところもある。
BLM運動をきっかけとする用語の変更はmaster/slaveにとどまらない。「blacklist」を「denylist」や「blocklist」に、「whitelist」を「allowlist」に言い換えるといった変更は、Twitterのほか、Google傘下のChromiumや米国立標準技術研究所(NIST)なども表明した。blacklistという言葉は「黒=悪い、白=良い、という考え方を増長させる」とChromiumは説明する。
IT業界以外でも、NFLの「Washington Redskins」はチーム名の変更を検討すると表明し、ゴルフの「Masters」の名称も変えるべきだという意見が出るなど、各方面で相当多くの言葉が変わりそうな勢いだ。
これまで定着していた用語の変更をめぐってはさまざまな論議があるし、反対意見も根強い。けれどそうした論議自体、言葉がもつ本来の意味や、その根底にある意識について考えさせてくれる。Twitterが言う通り、「#Words matter」だから。
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