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薔薇をPythonで描けますか? “オブジェクト指向”でデザインする新潮流「Grasshopper」(3/4 ページ)

» 2020年07月16日 09時00分 公開
[Masataka KodukaITmedia]

Grasshopperによる設計手法を採用しているドイツの会社

 実際にGrasshopperによる設計手法を採用している、ドイツを拠点とする建築・都市計画の設計・エンジニアリング事務所、ASOBU GmbHの共同代表、金田真聡氏に話を聞いた。

――Grasshopperを建築設計に活用しようと考えた理由は?

金田氏 私はもともと、純粋なデザイン分野の建築家です。かつては、自分にしかできないデザインの表現力と感性が最も大事だと思っていました。

 しかしある時、自分の描きたいものだけを描くことは、エネルギーなど地球の資源を浪費するデザインなのではないか、と気付きました。Grasshopperを建築設計の現場に導入することで、客観的なデータに基づく科学的なアプローチを行いたかったのです。

――どんなことに活用していますか?

金田氏 例えば、Grasshopperでは「設計された建築物に住む人は、夏、窓を開けるとどれほどの快適性を得られるか?」ということをシミュレーションできます。実際に気象庁などが公開している気象データをプログラムで読み込み、気温、湿度や風速などの統計を利用して、大多数の人が快適と感じる時間が何時間あるか解析できます。

 この快適性判定は、まだまだプログラムのロジックが日本の風土に完全には対応していないのでブラッシュアップを進めているところなのですが、例えば、気候データをこの快適性分析プログラムで解析すると、東京の8月に人が窓を開けて(温度/湿度の面で)快適だと感じる時間数は、1カ月間の約1%程度というような結果が得られます。

photo 東京立川の気象データをGrasshopperの「快適性分析プログラム」で解析した結果。画像提供:ASOBU GmbH

 窓を開けても、人が想像するほど快適性は得られないのです。しかし、こういうシミュレーション結果を見ずに、「風通しがあれば大丈夫」という思い込みで設計が行われている現状もあるのではないでしょうか。このことは、建築分野の専門家よりも、一般の人々が感じていることだと思います。

――今後、これらソフトウェア利用において、期待していることは?

金田氏 このような統計的/科学的なシミュレーションを用いて、テクノロジーと人の距離を縮めたいです。実際のところ建築/土木業界におけるGrasshopper活用は、コスト削減と製造効率化目的で普及が進んでいます。例えば、構造強度を維持したままコンクリートや鉄筋量を最小にする、などです。

 ですが、私は将来的には、それに加えて、利用資源量を最小にしたいと考えています。有限な資源を大切にしたいですからね。

 Grasshopperと出会ったことで、建築家の職能は今、設計手法自体を再設計することではないかと考えているのです。

photo 上述の「快適性分析プログラム」(Psychrometric Chart)もPythonで書かれている。多くの開発者がフリーソフトウェアとしてプログラムを提供している

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