ITmedia NEWS > STUDIO >

フォグゲーミングでゲーム体験はどう変わる? 提供スタイルは? 西川善司がまとめて質問に答えるクラウドゲーミング? いいえ、フォグゲーミングです(3/3 ページ)

» 2020年07月22日 12時25分 公開
[西川善司ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

【Q】ゲームセンター店舗外のプレイヤーがその店舗のフォグゲーミング環境から提供されるゲームプレイを楽しんだ場合、そのプレイ料金はセガに支払われるのか、ゲームセンターの店舗に支払われるのか?

  筆者のファミ通の連載で、フォグゲーミング構想の記事を出した後に、「コナミが運営しているコナステとどこが違うのか」という質問が関係者に寄せられたという。

 コナステとは、当初は「e-AMUSEMENT CLOUD」という名称で運用が開始されたゲームサービスで、コナミグループのコナミアミューズメント社が展開するコナミ系アーケードゲームのオンライン接続サービス「e-AMUSEMENT PASS」の1サービスとして提供されている。平易にいえば、コナミ系のゲームセンター向けタイトルをクラウドゲーミングの形式でプレイできてしまうサービス……という理解でいいだろう。

 コナステの場合は、クラウドゲーミングなので、ゲームを稼働させている仮想ゲーム機はクラウド側にある。なので、仮想ゲーム機をゲームセンターの店舗に構えるフォグゲーミングとは違って、ゲームセンターの実店舗との関係性は薄い。実際、コナステ利用者は、ゲームプレイ料金をコナミ本体に支払う仕組みとなっている。

 セガ関係者に確認したところ、まだ料金体系について明確な方針は決まっていないとしながらも、フォグゲーミング・プラットフォームを利用して提供されるゲーム体験のプレイ料金は、そのゲームを稼働させているフォグゲーミング対応システム基板が置かれているゲームセンターの店舗にも分配される仕組みとなる計画だと述べていた。

 前述したような、フォグゲーミング・プラットフォームがゲーム以外のサービスにも活用されるようになった場合、「街のゲームセンター」は「街のデータセンター」としての役割を果たすようになるのである。

【Q】フォグゲーミングは「ゲームセンター向けのタイトルを店舗外のプレイヤーにも遊べるようにする」とはいうが、アーケードゲームは特殊なコントローラーが必要なタイトルも多い。この問題はどうするの?

 鋭い質問だ。

 だが、答えは自ずと出ている……と筆者は考えている。どういうことか。

 フォグゲーミング構想の第1ステップとして、

(1)セガがフォグゲーミング構想をゲームセンターやアーケードゲームを基軸にしたプロジェクトとしている

(2)フォグゲーミング・プラットフォームの第一ステップではゲームセンター向けのタイトルを店舗外のプレイヤーにも遊べるようにする

 この2つが特徴として訴求されている時点で、アーケード版と同等に近いコントローラーなども、タイトルの人気いかんでは発売する可能性は低くないのだと思う。

 実際、ゲームセンターにまでいってプレイするアーケードゲームに情熱を注いでいるプレイヤーは、そのゲーム専用のコントローラーなどを購入することへのハードルは低そうだ。

 これはアーケードゲームファンに限った話ではない。フライトゲーム、レーシングゲームといった特定ジャンルが好きなコア層は、フライトコントローラー、ステアリングコントローラー、その他のフットペダルを買い揃えることに抵抗はないし、格闘ゲームファンであれば「8方向レバー+ボタン」からなるアケコン(アーケードコントローラー)の導入も同様だ。「電脳戦機バーチャロン」のファンに向けて始まったタニタのツインスティック復刻プロジェクトも、その最たる例だと思う。

photo セガサターン版のバーチャガン。コアなゲームファンにとって専用コントローラーの導入に大した抵抗はない(笑)

 また、フォグゲーミングにおいては、

(a)ユーザーは高性能なゲーム機を買わずに済み、性能がそれほど高くないPC、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末で高品位なゲームが楽しめる

というクラウドゲーミングの美点/魅力が継承されることで、ゲーム機本体の購入が不要だ。ここは大きい。

 仮にそのゲームタイトルの専用コントローラーが1万円〜2万円だったとしても、3万円〜5万円もするゲーム機本体の購入が不要で、ゲーム機本体の購入なしにユーザーの手持ちの端末でプレイできるならば、専用コントローラー導入への抵抗感はグッと下がる。

【Q】フォグゲーミングはサーバーとユーザーの距離に起因した遅延を低減させることはできるが、遅延要因は他にもあるのでは?

 知っている人も多いとは思うが、現在のほとんどのクラウドゲーミングサービスでは、映像/音像の圧縮(エンコード処理)に関してフレーム相関型の圧縮技術を使っている。代表的なものとしてはMPEG4系のH.264コーデックがあるし、最近ではその次の世代のH.265(HEVC)コーデックの採用が進む。ちなみにGoogle系であるStadiaはVP9コーデックを採用している。

 こうしたフレーム相関圧縮技術は、1フレームまるごと溜めこんで処理する必要があるために、確実に1フレーム分遅延する。

 リアルタイム性を最重要視するのであれば、このフレーム相関型の圧縮技術はあまりよいソリューションではない。

 しかし、それでもこうしたフレーム相関型の圧縮技術が採用される理由は2つある。

(1)遅延の大きさと引き換えに、フレーム相関圧縮技術は元データサイズの1000分の1から数百分の1という圧倒的な圧縮率が可能なので通信伝送路の帯域を節約できる

(2)多くのPC、スマホ、タブレットといった端末において、H.264/H.265/VP9などに対応したデコードチップが搭載されていて互換性が高い

 では、この映像/音像の圧縮(エンコード)処理を低遅延にするにはどうしたらよいのか。

 1つ考えられるのはフレーム相関圧縮技術のかわりにライン相関圧縮技術を用いることだ。

 これは現在、映像を低遅延で無線伝送する際にも用いられている技術で、映像を構成するまとまった走査線(ライン)単位での圧縮を行う技術になる。

photo ライン相関圧縮技術で最も身近に実用化されているのはDisplayPort1.4およびHDMI2.1に採用されたVESAが規格化したDSC(Display Stream Compression)だ。この図はVESAが公開している、DSC 1.1とDSC 1.2a、VDC-M 1.1/1.2の比較

 ライン相関型圧縮技術では、圧縮の際に溜め込む映像情報は、例えば16ラインとか32ラインとかで、フルHD解像度ならば1920×16ピクセルや1920×32ピクセル単位に圧縮メカニズムを作動させるイメージだ。

 例えば16ライン単位の圧縮であれば0.015(≒16÷1080)フレームのエンコード遅延で、32ライン単位ならば0.03フレームのエンコード遅延に抑えられる。ただし、ライン相関圧縮技術は原理的に局所的な圧縮に留まるため、圧縮率はフレーム相関圧縮技術と比べれば芳しくない。例えば上の表で例示したDSCの場合は、不可逆圧縮で、その圧縮率は最大で5分の1程度に留まる。

 これではフルHD解像度でもその伝送に数百Mbpsの帯域は必要になることだろう。

 現在、ライン相関型圧縮技術で、インターネットのような通信路に流すための技術基盤は開発されていない。仮にインターネットに適応できるライン相関圧縮技術が規格化されても、

(a)数百Mbpsの安定的な高速通信路の確保が必要

(b)PC、スマートフォン、タブレットのような一般的な端末で、超低遅延にハードウェアデコードする仕組みが搭載される必要がある

という要件が立ち上がり、これは奇しくも、上で述べた、フレーム相関圧縮技術が採用されている理由(1)(2)とちょうど“補完”関係となっている。

 映像/音像に起因した遅延問題は、フォグゲーミングに限らず、既存のクラウドゲーミング・プラットフォームにおいても重大に受け止められており、早急に解決する必要があると筆者も思う。

 ちなみに、デコード処理の方の遅延はあまり気にしなくてもよいかもしれない。というのも、フレーム相関圧縮技術においてはデコード処理も1フレーム単位にはなるものの、データ量が1000分の1から数百分の1になっているため、ユーザー元に1フレーム分のデータがやってきてからデコード処理を仕掛けても遅延時間はごくわずかである。

 圧縮済みの1フレームはデータサイズにして1000分の1から数百分の1になっているのだから、1フレーム分のデータを受け取る時間も1000分の1から数百分の1になるので、その遅延はほとんどないに等しい。

【Q】フォグゲーミングって日本ローカルの話ですよね?

 今のところはそうなるだろう。

 フォグゲーミング・プラットフォームは「国土の津々浦々にあるゲームセンターをデータセンター化する」という着想が起点になっているからだ。

 ゲームセンターがこうして全国展開している国は他にないので、当面は日本ローカルなビジネスモデルとなることだろう。

 ただ、発想を拡張して「国土の津々浦々にコンピュータを配置することが自然な業態」がある国ならば、フォグゲーミング構想は展開できそうだ。

 例えば、ネットカフェにフォグゲーミング的な業態を導入させていくことは突拍子もないことではないように思えるし、ネットカフェとゲームセンターを融合させたような施設「PCバン」が普及している韓国ならば、さらに有望かもしれない。

 まあ、もし、携帯電話の基地局や変電所くらいの密度感で、人が住む街並みの周辺にコンピュータを配置するような社会になれば、ゲーム機そのものがフォグゲーミング・プラットフォームに置き換わっているかもしれない。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.