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きっかけは「セントリーノ」 インテル出身の二人が提案する熱中症予防の新“法則”(2/2 ページ)

» 2020年08月21日 07時10分 公開
[芹澤隆徳ITmedia]
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 このときの知見を元にアイスバッテリーを開発。医薬品の冷却輸送に役立てようとアイ・ティ・イーを設立したのが2007年のことだった。地元インドは輸送インフラが未成熟で、医療機関にワクチンや血液が届かないといったことも多かったからだ。

 以来10年余り。アイスバッテリーは−20度から+25度まで保冷温度のバリエーションを増やし、医薬品のみならず、生鮮食品の輸送など物流分野で広く使われるようになった。契約企業は100社を超え、テレビや新聞に“物流革命”と紹介されることも。そして19年、ついにインド国営鉄道系列の物流企業と冷却輸送でパートナーシップを結ぶことに成功した。

きっかけはとれたてフルーツ

 松浦工業の井戸さんは、インテルの事業開発本部に在籍していた7年ほど前、開発拠点がある茨城県つくば市や筑波大学と産学官共同の新規事業を立ち上げることになった。市内で作られる果物や野菜を新鮮なまま輸出したい——輸送方法を検討していたとき、同僚に紹介されたのがアイ・ティ・イーだった。

 アイスバッテリーを活用した事業は軌道に乗り、タイのバンコクに直売所を開設するまでになった。しかし2年前、親族が経営する松浦工業の跡継ぎとして転職することに。それまでの卸売り業では将来性に欠けると考え、思い切ってアイスバッテリーの一般販売に名乗りを上げた。

 「より多くの人にアイスバッテリーを使ってもらいたい。(ガルグさんに)コンシューマー商品を作ろうと提案しました」

 事業化にあたり、アイシング商材の設計や販路拡大にも取り組んだ。例えば、アイスバッテリーfreshを覆うポリウレタンフィルムは井戸さんのこだわりの1つ。肌触りが良く、掃除も楽なポリウレタンだが、接合部は固く肌を傷つけかねない。このため、袋状にしてから裏返して使用するという手間の掛かる手法を採用した。製造は地元大阪の町工場に委託している。

アイスバッテリーfresh。袋状にしてから裏返すことで接合部を1カ所にできた

 現在の目標は、アイスバッテリーを使ったアイシングを訴求し、若い人たちの熱中症、とくに重症化リスクを抑えること。インテル時代のつながりがあった筑波大学をはじめ、複数の大学や企業、スポーツチームの協力を得て実証データの収集と手のひら冷却の啓蒙を進めている。

 「体力があるはずの若い人(7〜17歳)が熱中症で倒れるのは運動中、主に部活動です。重症化リスクを抑えるには、こまめな水分補給に加えてクールダウンも重要。そのために指導者の意識を変えていく必要があります」と井戸さんは説く。

 当初、一般販売する製品は井戸さんに任せていたガルグさんも近年はアイシングと健康管理について研究を重ね、新製品の開発も進めているという。元インテルの2人が、それぞれの知見と人脈を生かして取り組む熱中症対策。かつてのセントリーノのように、次世代のスタンダードになるかもしれない。

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