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Apple Siliconに求められるもの Apple Silicon Macのチップはどのような構成になるかApple Siliconがやってくる(2/4 ページ)

» 2020年10月26日 07時41分 公開
[大原雄介ITmedia]

macOSでのbig.LITTLE問題

 まず基本的な話を整理すると、

  1. Single Thread Performance、つまりCPUコア単体での「動作周波数当たりの性能(≒IPC)」は、既にApple A12の時点でIntel Coreプロセッサにほぼ比肩しうるとされている。もちろんIntelもどんどん性能を強化してはいるが、前回ご紹介したようにAppleも性能をどんどん上げており、おそらく米IntelのTiger LakeとApple A14はやはり同等レベルと考えてよい。なので、「より高い性能が必要」というのでない限り、CPUのアーキテクチャそのものは、現在のApple Aシリーズの延長をそのまま利用できるとみられる。
  2. その一方で、動作周波数そのものはピークでも3GHzを切る程度であり、iPhoneに使われるAxxシリーズはコア当たり1〜2W、iPad向けに消費電力枠の大きなAxxX/Zシリーズでも3〜5W程度に抑えられているとみられる。これはスマートフォン向けアプリケーションの動作には適しているが、デスクトップや将来的にワークステーション/サーバの分野までカバーするにはちょっと低すぎる。
  3. big.LITTLEに関しては現状判断が難しい。基本的には現時点のmacOSのアプリケーションは、big.LITTLEを考慮して記述されていない。もっとも本来big.LITTLEはアプリケーション側からはTransparentな存在として実装されているので、アプリケーションがこれを見ながら操作を行うのは筋論として間違ってはいる。

 間違ってはいるのだが現実問題として、例えばFPSゲームなどでは、戦闘と戦闘の合間の比較的負荷が少ないシーンで勝手にLITTLEコアに切り替わってしまうと、いざ戦闘となって負荷が急増するタイミングでbigコアに戻るまでのレイテンシがばかにならないから、「負荷が減ってもbigコアのままで動かしたい」なんてニーズは当然存在する。この辺りをプロファイルでやるとか、実行ファイルにTagを付けておくとか、いろいろと実現手段はあるのだが、どれを使うにしても現時点のmacOSにbig.LITTLEのインプリメントが存在しない以上は、そもそもbig.LITTLEを使わない(bigコアのみ)方式にするか、あるいはmacOSにbig.LITTLEの実装を入れるかのどちらかということになる。

 この辺りの判断が難しい一つの理由は、例えばArmはサーバ向けではbig.LITTLEを利用していないこと。確かにサーバ向けプロセッサ「Neoverse N」シリーズ(スケーラビリティ重視)と「Neoverse E」シリーズ(省電力重視)の2種類のコアの混在はできるが、これはダイナミックに切り替えではなく、Nシリーズのクラスタ(CPUコアを複数まとめた管理単位)とEシリーズのクラスタを同時に動かし、ただしそこで走らせる処理をそれぞれに適したものにする、という形の実装を前提にしている。要するにヘテロジニアスなプロセッサ環境だ。米AMDはそもそもbig.LITTLEの実装はまるで予定していない。

 厄介なのがIntelで、まずbigコア(Sunny Cove)×1+LITTLEコア(Tremont)×4という組み合わせの「Lakefield」と呼ばれるCPUを2020年に発表、21年にMicrosoftから発売されるSurface Neoに実装される予定だ。ただこれは超薄型、AppleでいえばMacBook Airとか、iPad Airというか超薄型のフォームファクター向けの製品であり、デスクトップというよりは限りなくスマートフォン/タブレットに近いもので、アプリケーションの使われ方もこちらに近いからあまり考慮する必要はない。

 問題はIntelがこのbig.LITTLEの実装をデスクトップ向けにも展開しようとしていることだ。来年第1四半期に投入される「Rocket Lake」がその第一弾で、これは単一コア(「Coffee Lake」と同じものという話とSunny Coveを入れるという話の両方がある)ながら、8コア12スレッドという変則的なものである。つまり4コアはHyper Threadingが無効化されているという疑似アシンメトリック・プロセッサである。

 本命はその次に予定されている「Alder Lake」で、こちらはbigコアにGolden Cove、LITTLEコアにGracemontを搭載する、完全なアシンメトリック・プロセッサである。何でこんな変な構成にするかというと、要するにIntelのプロセスが相変わらず不調で、10nm世代の次世代(10nm SuperFin)にしても、性能レンジが狭くなっているからだ。ピーク性能でAMDのRyzenシリーズに伍(ご)するためには、高性能/高消費電力にプロセスをチューニングせざるを得ず、すると低負荷時の消費電力が高くなり過ぎる。そこで、相対的に低消費電力なAtomベースのGracemontを組み合わせて消費電力を下げる、という形で解決しようというわけだ。

 Intelがbig.LITTLEに走る理由が、主にプロセスに起因する消費電力増を少しでも抑えるためという辺り、これをAppleが採用する可能性はすごく低いと思いたいが、こればっかりは今後のTSMCその他のプロセスの動向次第なのでなんともいいがたい。多分ではあるが、macOSにもbig.LITTLEの実装は入れつつ、ただし実際のApple Siliconは(少なくとも5nmプロセスを使う世代では)モノリシックな構成になるのではないかと思う。

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