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Apple Siliconに求められるもの Apple Silicon Macのチップはどのような構成になるかApple Siliconがやってくる(3/4 ページ)

» 2020年10月26日 07時41分 公開
[大原雄介ITmedia]

Apple Siliconはどういうものになるのか

 「ではApple Siliconはどういうものになるか」という話を少し考えてみたい。まずプロセス絡みの話を。

 図1は、一般的なプロセスにおける動作周波数と動作電圧の関係をまとめたものだ。

photo 図1:動作周波数と動作電圧の関

 基本的には、あるところ(Sweet Spotの手前)までは動作電圧がそれほど増えずに動作周波数を上げていけるが、Sweet Spotあたりから急に増え始める格好になる。ちなみに動作電圧は、ある程度以下だとそもそもトランジスタが動作しない(これが下限)し、ある程度を超えるとトランジスタそのものが破壊される(これが上限)ので、この範囲内で動かすことになり、動作周波数の上限と下限も、この電圧の上限と下限で一意に決まる形となる。

 さて、このカーブはプロセスそのもので決まる。写真1はちょっと古いが、台湾TSMCが2015年のArm TechConで示した、N16とN16+という2つのプロセスの特性を示したものだ。

photo 写真1:ちなみにこのN16を採用した例は中国HiSiliconのごく一部の製品プラスアルファ程度で、ほとんどの製品はN16FF+を利用している

 黒がN16のシミュレーション結果、緑がN16+のシミュレーション結果で、赤が実際にN16を利用して製造したシリコンでの実測値である。N16の実測値がN16シミュレーションと同じカーブを描きつつ、やや右にシフトしているのは、実際に製造したらシミュレーションよりちょっと特性が良い(同じ電圧でより高速に動く)という話だし、N16+はさらに高い動作周波数が狙えるという話になる。

 さて、写真1でいえば、通常のモバイル向け製品は動作周波数の下限〜Sweet Spot辺りまで、デスクトップやサーバ向け製品はSweet Spot〜動作周波数の上限辺りまでを利用する形になる。

 IntelとかAMDは、同一のダイながら、この動作周波数と電圧の関係を利用して、モバイル向け(〜25Wとか35W)とデスクトップ向け(〜100W未満、最近は100Wを超えるものも出てきた)を作り分けている格好だ。ただこの方式は「デスクトップ向けCPUをモバイルに転用する」ことはできるが、「モバイル向けCPUをデスクトップCPUに転用する」ことはできない。これは内部の配線やトランジスタの作り方に起因する。

 図1は縦軸を電圧としたが、オームの法則(電圧=電流×抵抗)で分かるように、電圧を増やすと電流も増える。なので、デスクトップ向けのようなCPUでは、増える電流に対応するために配線を太くしたり、電流の駆動力を増やすためにトランジスタを変更したり(昔のプロセスだとトランジスタの寸法を微調整して対応したが、昨今ではFinFET構成なのでFinの数を増やして対応する)する必要がある。

 これは消費電力とダイサイズの大型化につながるが、デスクトップとサーバ向けでは必ずしも大きな問題にはならない。一方でモバイル向けの場合は、基本的には電圧を落として低めの動作周波数で使うから、電流もそれほど大きくはならないので、配線も相対的に細くていいし、トランジスタの駆動能力も低めで足りる。そのかわり消費電力とダイサイズを小さく抑える必要がある。

 写真2はIntelの14nmの例だが、デスクトップあるいはサーバ向けのHigh Performance Clientは配線層そのものが結構太い(厚みがある)一方で、左右方向の密度はそれほど高くないことが分かる。

photo 写真2:単に配線だけでなく、トランジスタの構造そのものも、High Performance ClientとHigh Density SoCでは異なっている

 一方モバイル向けとなるHigh Density SoCでは厚みも減らされ、そのかわり左右方向の密度もずっと高くなっている事が分かる。要するに、どの程度の電流が流れるかに応じて配線層の構成が全く変わっている訳だ。こうした内部の作り方に応じて、特性も図2のように変わってくる。

photo 図2

 モバイル向けのプロセスだと、特に負荷が少ない時の消費電力をものすごく落とせる一方、それほど高い動作周波数は期待できない。デスクトップ/サーバ向けのものは、負荷が少なくてもそれなりの消費電力になる一方、より高い動作周波数が期待できることになる。

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