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「在宅勤務を標準へ」――1万5000人がテレワークする日立、セキュリティで見直したことは?

» 2020年10月31日 08時00分 公開
[安田晴香ITmedia]

 「今後は幅広い職務で在宅勤務を標準とした働き方を推進する」――日立製作所(以下、日立)は5月、このような発表をした。この方針の下、同社は緊急事態宣言の解除後も在宅勤務を推進し、現在は従業員約3万人のうち約5割(9月末時点)が社外で業務を行っているという。

photo 在宅勤務を標準とした働き方へ(日立製作所のリリースより一部抜粋)

 日立の在宅勤務制度は一定時間の出社義務や利用回数の制限はなく、自宅やサテライトオフィスでの勤務が可能だ。仕事内容や成果を基に等級や報酬を決める人事制度の整備も進め、2021年4月からは在宅勤務を標準とした働き方に移行するとしている。

 この新しい働き方を進める上で、同社が行った施策の一つがIT環境の整備だ。ポイントは「セキュリティリテラシーの向上」と「セキュリティと利便性の両立」だったという。

 社内業務でのセキュリティ意識から、在宅勤務の意識への切り替えにはどんなポイントが重要となるのか。同社のIT部門に所属する籾山二郎さん、鈴木邦昭さんに聞いた。

ガイドラインを“在宅向け”に

 日立が在宅勤務制度を導入したのは1999年。当時は一部の社員を対象に、自宅やサテライトオフィスでの勤務を認めていた。徐々に利用できる社員の対象は拡大されたが、コロナ禍の前は育児や介護を行う社員の利用がほとんどだった。制度自体はあったものの、利活用は浸透していない状態だったという。

 緊急事態宣言を受け、4月からは全社的に在宅勤務へ移行。以前から社員向けに、社外で業務を行う際の注意点をまとめたセキュリティガイドラインはあった。しかしこれまで在宅勤務を利用していた社員は限られていたため、在宅勤務時のセキュリティ意識はまだまだ浸透していなかった。

 そこで、籾山さんたちは自宅で業務を行う際のセキュリティ上の注意点をまとめ、社内ポータルに公開。社員への注意喚起を促すことで、全社的なセキュリティリテラシーの向上を図った。例えば以下のような項目だ。

 「Web会議では、会話の内容が家族など周りの人に聞こえないか気を付ける」

 「業務では会社からの貸与端末を使い、私物の端末を使わない」

 「社内外のデータ共有などにパブリッククラウドを使わない」

 「社内資料などを出力する際、自宅のプリンタを使わない」

photo 日立製作所の籾山二郎さん(ITデジタル統括本部/グローバルソリューション統合本部/ソリューション開発部 部長)

 「これまでのガイドラインは社内で業務を行う前提で作られていたので、在宅だとこういう点に気を付ける必要がある、という視点を交えたナレッジ集をまとめました」(籾山さん)

 Web会議で使う「Skype」「Microsoft Teams」などの活用方法をまとめたガイドも社内で共有し、トラブル対応の窓口も設置。「Web会議をしたことがない」「Skypeは分かるけどTeamsは分からない」といった社員も少なからずいたため、社員全員がツールを使いこなせるような環境を整えていった。

特例で私物スマホをOKに

 日立が在宅勤務を進める上でもう一つポイントとなったのが、セキュリティと利便性の両立だ。新たに作った在宅時のガイドラインにあるように、日立ではBYOD(個人端末の業務利用)を認めていない。PCのネットワークの帯域を確保するため、Web会議には会社支給のスマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスでやりとりを行うよう、当初は呼び掛けていた。

 しかし、予想をはるかに上回るスマートデバイスのニーズが殺到。需要に供給が追い付かない事態となった。そこで会社が定めた利用条件を満たす端末に限り、Web会議に使うスマートデバイスとしてBYODを認めることにしたという。「セキュリティと利便性の両方を担保するため、特例として対処しました」と籾山さんは話す。

photo Web会議に使うスマートデバイスはBYOD可能に(写真はイメージ)

 ネットワーク環境の整備も行った。在宅勤務が全社的に始まったときは「社内ネットワークにつながりにくい」「接続に時間がかかる」といった声が上がった。これに対し籾山さんたちは、オンプレミスとクラウドのサーバを併用することで対処。1カ月弱で環境を整え、4月下旬には同社含むグループ全体から約8万の同時接続ができるようになったという。

 「20年に予定されていた東京五輪を見据え、首都圏エリアは在宅勤務になるだろうと想定し、準備自体は進めていました。しかしコロナ禍によって準備を前倒し、ネットワーク環境を整えました」(籾山さん)

今後もIT環境を整備

photo 日立製作所の鈴木邦昭さん(ITデジタル統括本部/グローバルソリューション第2本部/NewNormal推進プロジェクト 部長)

 今後は在宅勤務を行う中で社内から寄せられた声を基に、IT環境の整備を進めていく

 「セキュリティと利便性の担保も外せません」と鈴木さんは話す。同社では社内環境をシンクライアント化しているが、シンクライアントではサーバに負荷が掛かり、Web会議の音声や動画の質が劣化することがある。「セキュリティをがちがちに縛ってしまうと、使いにくいインフラになってしまいます」と鈴木さん。セキュリティを担保しつつ、社員がPCやスマートデバイスなどをスムーズに使えるよう、利便性をさらに高めたいとしている。

 コロナ禍をチャンスと捉え、IT環境の整備をはじめ働き方全般の見直しを進め、恒久的に新しい働き方へ移行しようとする日立。「テレワークを続けるためにセキュリティは今のままで良いのか」といった悩みを抱える企業にとっても、参考の一つになるかもしれない。

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