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届け、2万7000筆の思い 「霞が関は残業の震源地」──国家公務員の働き方改革に向け有識者が河野大臣に署名を提出(1/2 ページ)

» 2020年12月04日 18時09分 公開
[樋口隆充ITmedia]

 「各省庁を午後10時から翌朝5時までは完全閉庁してください」――。中央省庁の働き方の改善を求める有識者団体「深夜閉庁を求める国民の会」がこのほど、河野太郎行政・規制改革担当相にネットで集まった署名とともに提言書を提出した。提言書では午後10時から翌朝の午前5時までは省庁を完全に閉庁した上で、緊急性の高い業務はテレワークで行える体制の構築を求めた。これに対し河野氏は「今日で終わりではなく、今日をむしろスタートにして問題提起を続けてほしい」と答え、改善に向け前向きな姿勢を示した。

photo 河野担当相(左)に署名を提出した小室社長(右)

残業代は102億円、終電後のタクシーに22億円 「深夜の質問通告なければ明日からでも浮く費用」

 提言書を提出した有識者団体にはサイボウズの青野慶久社長や、ヤフーの川邊健太郎社長なども発起人として参加している。活動の中心人物の一人で、労働環境のコンサルティングを手掛けるワーク・ライフバランスの小室淑恵社長は提言の大きな理由として「税金の無駄遣いがある」と指摘した。慶應義塾大学大学院の岩本隆特任教授は国会期間中の霞が関職員の残業代として102億円もかかっていると試算。また、終電に間に合わず、深夜にタクシーで帰宅するために22億円もの経費がかかっているという。

 職員がタクシーでの帰宅を余儀なくされる大きな原因が、国会議員の質問通告だ。小室社長は「深夜になってようやく大臣への質問通告が行われ、それが終電を逃すことにつながっている」とし、「22億円があればコロナ禍の飲食店をどれだけ救えただろうか。質問通告が終電前に届けば、この22億円は明日からでも浮く費用だ」と改善を求めた。

 こうした霞が関の働き方は「国全体のデジタル政策の遅れの原因にもなる」と小室社長。「夜通しで作業し、いつでも対面で呼びつければいいという環境ではWeb会議もデジタルツールの導入も必要性を痛感せず、導入が進まない」「(現在のままでは)国家を担う人材が流出し、政策の質が低下し、国益を損なう」との見解を示した。

 ワーク・ライフバランスが国家公務員480人を対象に6月から7月にかけて行ったコロナ禍の中央省庁などの働き方調査では、議員対応がある国家公務員382人のうち、83%が「対面での打ち合わせを求められ、テレワークができなかった」、86%が「議員とのやりとりがFAXだった」と回答した。

photo オンラインでの議員レクの実施状況
photo 議員とのやり取りは、86%がFAX

 霞が関のデジタル化の遅れは民間企業にも波及するという。例えば、省庁が深夜にメールで企業に短納期の発注をすることで、受注した大企業がそれを中小企業にさらなる短納期で依頼する悪循環に陥る。小室社長は「働き方が変えられない業界の特徴の一つが省庁とやりとりがあるということだ」と指摘。「霞が関と永田町は『残業の震源地』であり、民間企業の残業の原因にもなっている」と訴えた。

深夜の質問通告を「戦術」とする議員も? 有識者らが河野氏に陳情

 河野氏への署名提出には各業界の有識者が同席。ドワンゴの夏野剛社長は職員の深夜対応の原因が一部の野党議員の姿勢にあると主張した。過去に接した野党議員が、深夜の質問通告を「これは戦術だ」と発言したといい、「わざと無理な時間に質問を出して、いわゆる凡ミスを狙うというものだ」と批判。

 「こんなことが先進国家で行われているのはおかしい。行政改革の一環としてだけでなく、政治の力も大事だ」(同)と河野氏に協力を求め、「特に野党の方には人の命を大事にしたルールに基づいた国会質疑の実現を強く求めたい」と述べた。

photo 発言する夏野社長

 元経済産業省の官僚で青山社中の朝比奈一郎社長は、自身の官僚時代の経験を基に「若手官僚はみんないい仕事をしたいと思っているが、残念ながらほとんどの業務がロジスティクス業務。資料を届けるなどそういうところに費やされているので、本質的にいい政策を作ることができない状況になっている」とし、「ぜひ、官僚の優秀な頭脳を政策作りの中身の方に向けられるように無駄な業務を大臣の力で一掃していただきたい」と求めた。

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