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AIは歌手の敵か味方か AIシンガー開発者が語る未来 分身がいることが武器になる社会へ

» 2021年01月29日 12時00分 公開
[谷井将人ITmedia]

 「AIは人間の敵ではない」——そう話すのは、AI歌声合成ソフト「CeVIO AI」を開発するテクノスピーチ(愛知県名古屋市)の大浦圭一郎代表だ。同社が目指すのは、歌手にとって自分を模したAIがいることが武器になる仕組みを作ることだ。

photo CeVIO AI(開発中の画面)

 テクノスピーチは深層学習を活用した歌声合成技術を開発するベンチャー企業。楽譜を入力して再生ボタンを押せば、自動で人間らしい歌声を出力する歌声合成ソフト「CeVIO AI」を開発している。1月29日には、第1弾として「CeVIO AI 結月ゆかり 麗」を発売した。

 AIによる歌声合成は、この1年でプロのクリエイターから趣味で楽曲制作をする人まで広く知られるようになった。2020年2月には、個人開発のフリーソフト「NEUTRINO」が話題になり、12月にはVOCALOID音源の販売などを手掛けるAHS(東京都台東区)が「Synthesizer V AI」を発売。それまでは、企業や大学などが研究していた技術に誰でも触れられるようになった。

 テクノスピーチは13年から深層学習を活用した歌声合成ソフトの研究を始め、18年には「バーチャルシンガーの歌声は人と区別できない時代へ」と題して、AIの歌声を披露した。

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 一方で、AI歌声合成ソフトの登場で、仕事を奪われるのではないかとこぼす歌手もいる。TwitterやAI歌声合成ソフトを使った動画のコメント欄には「仮歌の仕事がなくなる」「歌手はいらなくなるかも」といった不安の声をたまに見掛ける。

 AI歌声合成ソフトは歌手の敵なのか。大浦代表は「AIは敵ではない。自分の分身がいることが、自分にとって武器になるような社会や仕組みを作っていきたい」と話す。

 大浦代表が考えているAIの在り方はこうだ。例えば、とある歌手と、その歌声を学習したAIがいたとする。一つの仕事を取り合えばAIは敵になってしまうが、AIが漫画に出てくる秘密道具のように、歌手の分身となって別の場所で代わりに仕事をするとなれば話は別だ。自分の仕事が忙しくて別の仕事を受けられない状態でも、分身が仕事をこなせば収入が増える。

 自分の苦手な仕事を代わりにやってもらうこともできるだろう。自分の声と癖を再現できるAIに英語を歌う機能を搭載すれば、英語の歌の仕事を任せられる。自分の声を外国語に変換する技術は既にある。

 実際には、歌声合成ソフトが売れたときや法人がソフトを使った際に、モデルの歌手や所属事務所にインセンティブを還元するという仕組みがあり得る。

 大浦代表は「AI歌声合成ソフトの市場や文化は、今まさに盛り上げていこうという段階」とし、「アーティストやキャラクター、競合他社の力も借りながら、みんなで大きな流れを作っていこうとしている」と話す。

 現在は分身がいることが武器になる仕組み作りに向けさまざまな方法を検討し、構想をまとめている段階という。今後の議論によって、AI歌声合成ソフトと歌手の関係が徐々に整っていくだろう。

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