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Clubhouse隆盛でふと思う、この道はいつか来た道 Twitterとの共通点・異なる点新連載「デジタル・イエスタデイワンスモア計画」(1/2 ページ)

» 2021年02月16日 13時11分 公開
[甲斐祐樹ITmedia]

 ITライターという職業柄、筆者はこれまで数多くの新製品や新サービスをいち早く試してきた。新しい技術やそれがもたらす未来に期待を覚えてしまいがちな筆者としては、デザインや使いやすさ、コストパフォーマンスという要素以上に、新たな時代を切り開くような可能性を持った製品やサービスに魅力を感じてしまう。

 その結果として、個人的には大きな期待を寄せていたものの、当時としては新しすぎるがゆえに終了してしまったサービスや製品も数多く見てきた。そのため「甲斐がほめる製品はすぐ終わる」などと揶揄(やゆ)されることもあるのだが、未知の可能性に対して積極的に挑戦するからこそ、失敗するものもあれば成功するものもあり、失敗したものだけが目にとまってしまうだけの話だと思っている。

 一方で、当時としては早すぎた、もしくは理解されなかったものが、改めて見直してみると今こそ輝けると思えるものや、そのエッセンスを受け継いで成功している例もみられる。この連載「デジタル・イエスタデイワンスモア計画」ではそうした過去の製品やサービスを取り上げつつ、今の時代にそれがどう生きているのか、今ならどんな使われ方があるのかという可能性を、温故知新で考えてみたい。

photo Carpenters: Now and Then

流行のClubhouseとTwitterの共通点・異なる点

 なお、本来は筆者が注目していた過去の製品やサービスを取り上げていく連載なのだが、担当から今流行しているClubhouseについて書くべし、というお題が来ており、今回はやや変則的ながら最新のサービスであるClubhouseを取り上げる。

 音声SNSとして急速にユーザーを集めているClubhouseだが、日本のSNS創世記の頃から数々のSNSを使い続けてきた筆者にとって、Clubhouseの流行はTwitterが流行した当時と同じ感覚を覚えるシーンがいくつもある。

 今回はTwitterとClubhouseに共通する5つの点と、そして逆に異なる3つの点という視点で、Clubhouseに関する個人的な見解を語ってみたい。

共通点その1:海外の影響

 共通点の1つ目は海外の影響だ。Twitterが日本で流行し始めたのは2007年3月末から4月にかけてのことだが、そのきっかけは2007年3月にテキサス州オースティンで開催された「SXSW」というイベント。この年にTwitterがInteractive賞を受賞したことで話題を集め、日本のアーリーアダプター層が使い始めたことが日本でのブレイクにつながった。

 Clubhouseは、2021年1月24日にシリーズBラウンドの資金調達を行うと発表されたことで日本でも注目を集め、同じタイミングで日本の電話番号向けにSMSが送信可能になったことで、1月末に日本国内のアーリーアダプター層が使い始めた。

共通点その2:先行する人気SNS

 Twitter、Clubhouseのどちらも、流行する前には人気のSNSが既に存在しており、そして新鮮味を失っていたというのも共通点だろう。

 2007年春頃に日本で流行していたSNSといえば「mixi」だ。Twitterデビュー前年の2006年9月に上場し、2007年5月で983万人と約1000万人近いユーザーを獲得。国内ナンバーワンSNSの座に君臨していた一方で、当時mixiが誇っていた3日以内のアクティブ率が徐々に下がり始めるなど、ユーザー離れの兆しが見え始めていた。2007年7月に開催されたミクシィの決算説明会では、笠原健治代表取締役社長(当時)が「2006年頃に入ったユーザーのアクティブ率が高くない」とのコメントを残している。

 mixiと入れ替わる形で急激に成長したTwitterは、今では日本で最も利用されるSNSの1つになるほど大規模なサービスに成長。「バカッター」と呼ばれる炎上事件や誹謗中傷、デマが社会的な問題になるなど、人気サービスがゆえの暗い側面も目立ち始めた。

 サービスの規模が大きくなることで面白みを感じなくなったアーリーアダプター層が、新たなSNSの登場に飛びつくというのはよくある光景ではあるものの、これはTwitterとClubhouseにも当てはまるといえるだろう。

共通点その3:高いリアルタイム性

 コミュニケーションのリアルタイム性も共通している。Twitterは厳密にはリアルタイムではないものの、ブログやmixiのようなアーカイブコンテンツに比べてリアルタイム性が強く、ブレイク当時はリアルタイムなコミュニケーションツールとして注目を集めていた。

 音声コミュニケーションのClubhouseは、音声で話すという文字通りのリアルタイムなSNS。いまの空気感をそのまま伝えられるリアルタイム性は、Clubhouse人気の理由の一つだ。

制限の多いSNS

 長文が投稿できるブログやmixiに比べて、文字数が140文字に制限されているTwitterは、文字数以外にも非常に制限の多いサービスだ。

 国内の普及当初、Twitterへの投稿はPCのみで、日本語表示も対応しておらず、他のユーザーの更新通知は、当時提供されていたGoogleのチャットソフト「Google Talk」と連携する必要があった。

 その後Twitterが公式に携帯電話向けの日本語サービスを提供した際も、対応がキャリアごと異なり、auでは利用できるがNTTドコモの端末ではログインもできないといった制限があった。

 現在のところiOSでしか利用できず、テキストチャットも利用できず音声のみでコミュニケーションするClubhouseも、制限の多いSNSといえるだろう。

ユーザー発の文化形成

 一方、こうした制限があったからこそユーザーは独自に文化を作り始めた。他のユーザーの投稿を引用する「RT」機能は、ユーザーが考えたローカルルールがTwitter公式機能として採用されることになった。140文字で満足できないユーザーのために、長文を投稿できるTwitter連携サービスも提供されていたが、その後公式に「複数のツイートをつなげる」という機能が提供されている。いまでは懐かしい話だが、「@の前に.をつけてフォロワー全員に表示する」といったローカルルールも当時は流行していた。

 対応サービスも企業だけでなくエンジニア有志が次々に開発。Twitterが公式にモバイル対応した後も、使いやすさからサードパーティーのTwitterクライアントが人気を集めていた。Twitterの今の流行は、こうしたエンジニアやユーザーが作り上げた文化のおかげ、といっても過言ではないだろう。

photo Twitter初期の個人開発者によるクライアントの一つ「pocket*」

 Clubhouseもその制限の多さゆえにさまざまな文化が生まれ始めている。テキストでコミュニケーションができないため、マイクのミュートをオンオフすることで拍手の意を示す。会話できない、乗車中といったステータス表示のためにアイコンをいくつも用意する。最近では参加者から質問を募る際、プロフィール欄に質問を記入して、内容を確認した上でスピーカーとして招待する、という使い方もあるようだ。

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