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東日本大震災から進化を続ける“移動基地局” 災害時の通信ライフラインを確保する最新技術

» 2021年03月11日 19時20分 公開
[谷井将人ITmedia]

 東日本大震災から10年がたった。この間で復旧できたこと、まだ課題として残っていることがそれぞれある。そんな中、震災発生後から進化を続けているのが携帯キャリアの移動基地局だ。大手3社はこれまで、通信網の増強はもちろん、災害発生時の通信確保に向け、船、ヘリコプター、気球、ドローン、山岳用車など、さまざまな形の移動基地局や中継器を作ってきた。

photo さまざまな形の移動基地局や中継器

 地震に限らず、台風や豪雨など、日本は多くの災害に見舞われている。水道や電気など生活に必要なインフラも当然重要だが、通信もいち早く復旧するべきインフラになりつつある。被害や救助の情報も命を守るのに重要な資源になるからだ。

 そんな被災地に、復旧までの間、素早く通信環境を提供する役割を持つのが移動基地局だ。停電や光ファイバーの伝送路などが途切れて機能が止まってしまった基地局に代わり、必要とする人に電波を届ける。車に基地局の機能を載せた「移動基地局車」や、持ち運んで設営できる仮設の「可搬型基地局」などは東日本大震災以前からあったが、各社は震災後に開発を強化。あらゆる場面を想定した基地局が登場した。

KDDI:陸が難しいなら海から船で通信復旧 3.11の経験からアイデア

 KDDIは東日本大震災で通信の復旧に難航した経験から、移動基地局車の小型化、船舶型基地局、ヘリコプター型基地局の開発を続けてきた。

 移動基地局車は震災後、小型化が進んだ。大型車両が通れない細い道でも走れるよう小回りが利く小さい車両も採用するようになった。今後もさらなる小型化を目指して開発していくという。可搬型基地局も、車でも入れないような場所に水陸両用車や4輪バイクなどで持ち込めるよう小型化している。

 2018年の北海道胆振東部地震では、海底ケーブルの敷設に使う船「KDDIオーシャンリンク」に基地局機能を載せ、船舶型基地局として北海道日高町の沿岸部に配置。東日本大震災のときに陸地からの基地局復旧に時間がかかった経験が、海側からの通信復旧というアイデアにつながった。

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 ヘリコプターに基地局機能を載せたヘリコプター型基地局は21年1月に実証実験が成功したばかりの最新型だ。機器の総重量を約7kgまで小型化し、人が背負ってヘリコプターに乗り込む。半径約1kmを一時的にエリア化し、通信できるようにする。救助を必要とする人のGPS情報を取得することもできる。

ソフトバンクは気球やドローンで電波を中継

 ソフトバンクも、震災後から移動基地局車や可搬型基地局を増やし続けている。加えて力を入れているのが、気球やドローンによる電波の中継だ。

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 災害時には、中継器を乗せた気球を飛ばし、全国配備した移動基地局車などが発する電波を中継することで、一時的にエリアを拡大する技術を持っている。

 20年には、気球よりコントロール性能が高く、出動までの準備が素早くできるドローンに中継器を搭載。高度100mまで上昇させると、最大で半径10kmを一時的にエリア化できる。有線で給電するため、3日間継続飛行できるのも特徴だ。KDDIのヘリコプター型基地局と同様。携帯電話のGPS機能を活用して、救出を待つ人の位置を特定する機能も備えた。21年度以降に本格配備を始める。

車両のバリエーションが豊富なドコモ

 NTTドコモも移動基地局車の増強、ドローンによる電波の中継、船舶型基地局の開発などを行ってきた。ドコモの場合は、移動基地局車も含めた車のラインアップが豊富だ。

 一般的な基地局と同様の回線を使う移動基地局車に加え、衛星回線を活用した「衛星エントランス搭載移動基地局車」も配備。周囲の環境に影響されないため、両方あることでよりつながりやすくなる。山岳地帯や悪路を走行できる専用車両もある。可搬型基地局も、衛星エントランス搭載のものがある。

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 今回は移動基地局にフォーカスしたが、通信インフラの復旧を助ける働く車は他にもある。例えば、基地局に電力を供給する「移動電源車」だ。これも各社が増強を続けている。ドコモは乗用車で引っ張る小さい電源車から、通信設備を設置したビルをカバーする大型の電源車までをそろえている。他にも、通常の基地局を素早く復旧させるための特殊車両などがある。

 各社は東日本大震災の教訓を生かして非常時に備えている。普段は頻繁に使われることのない設備かもしれないが、災害発生時の通信を支える仕組みは確実に用意されている。

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