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USBが誕生したのは「奥さんのプリンタをつなげる手間にキレたから」 USBの設計当時を振り返る“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(3/6 ページ)

» 2021年06月23日 16時42分 公開
[大原雄介ITmedia]

 要するにUSBの策定にあたり、どこかの企業が持つ特許に抵触する、あるいはUSBの実装に関連して特許を取り、その特許なしでは実装不可能にする、なんてことがあると普及の大きな妨げになる。これは上でちょっと出てきたAppleのGeoPortがその代表例である。

 もともとはLocalTalkの後継というか拡張規格で、最大2Mbpsで通信できるようにしたもので、これで高速モデムを接続できるという触れ込みだった。実際AppleはこのGeoPortを利用してモデムを接続するためのMTA(Macintosh Telephony Architecture)というAPI(MicrosoftのTAPIに相当するもの)を開発し、さらにこのGeoPortとMTAをサポートするためにVersit AllianceをIBMやNovell、Siemensとともに立ち上げるなどがんばったのだが、GeoPortそのものの性能の低さや拡張性不足に加え、AppleがGeoPortでロイヤリティーを取ろうとしたことも致命的な理由の一つになり、結局Quadra 660AV/840AV辺りから一部機種で実装されたものの、消えてしまった。

 Pippin Atmarkにも実装されていたらしいが、GeoPortが理由でPippinがダメだった、という悪口とPippinが理由でGeoPortがダメだった、という両方の悪口を目にしたことがある。多分どっちもダメだったのだろう。

photo そのPippinのGeoPort(右下)

 USBを真に普及する規格とするためには、ロイヤリティーフリーで実装できることが必要というのがIALの方針であり、USBをIntel自身が主導するのではなく、USB-IFというある意味業界で中立な団体に任せたのもこうした意向による部分が大きい。

 実際にはVender IDの取得とかCertificationの取得にコストは必要だが、これはある意味実費であって、またVender IDは安価(最近はちょっと値段が上がってOne Time Processingだと6000ドル、USB-IFのメンバーに参画すると無償で提供されるが参加費が年間5000ドルになる)であり、しかもこれは製品の出荷個数によらず一定金額である

 ではIntelのメリットは? という話だが、これはIALそのものと同様に、短期的な利益ではなく長期的にPCの出荷台数が増えたり、周辺機器が増えたりしてマーケット全体が大きくなることがIntelの利益につながるというビジョンであり、そのための投資を惜しまなかったという話でもある。

 話そのものをUSBに戻すと、1994年末には早くもRevision 0.8のSpecificationがリリースされる。ただ実際はここからが長かった。そもそもUSBはPCIと比較しても、実装上の難易度が高かった(PCIの話はまた次回に)。

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