このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
米MIT Media Labの研究チームが開発した「aSpire」は、呼吸のリズムを整える目的で作られた触覚デバイスだ。バッグの斜めがけストラップや車のシートベルトに装着し、胸に密着できるデザイン。空気圧による収縮で身体に直接触覚を与え、ユーザーに呼吸を整えるよう促し、呼吸数を減らすことでストレス誘発の軽減を目指す。
呼吸リズムを整えるデバイスとしては、収縮するクッションをお腹の上で抱える装置「Relaxushion」などがある。
今回開発したのは、歩行や車通勤などの移動中に使うことを想定し、体に装着した状態で利用できる呼吸制御デバイスだ。
伸縮自在の圧力センサーを内蔵した3つのソフトアクチュエーターモジュールと、空気圧制御システムモジュールで構成。重量は252g。5つの電磁弁を備え、モーター1つで個々のアクチュエーターの変形速度を制御する。3つの伸縮機構が直列につながり、各機構が独立に動作することで、さまざまなパターンの触覚刺激をもたらす。
車のシートベルトに装着し、被験者に後部座席で体験してもらったところ、このデバイスが動作していると、動作していないときよりも呼吸数が平均24.8%低下することを確認した。被験者の60%は、デバイスが膨らんでいるときは息を吸い、膨らんでいないときは息を吐いていたと回答したという。
被験者からはこのほか、呼吸に集中して落ち着けた、ペットや子どもを抱きしめているような刺激が得られた──などの報告もあった。被験者の1人は、車のクラクションを鳴らされたときや急停車時など、外出先でストレスを感じる出来事があったときにも気分を落ち着かせることができ、いやな出来事を無視できたという。
被験者の93%がストレス解消や瞑想のために本デバイスを使いたいと回答。移動時だけでなく、日常生活における活用の可能性もあることを示唆した。
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