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「メタバース=スノウ・クラッシュ」で本当にいいの? メタバースはコンピュータの歴史そのものだ(2/3 ページ)

» 2021年09月10日 09時23分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「メタ」バースであることの価値とは何か

 だが、メタバースの「メタ」がなければ、やはりそれは「1つのコミュニケーションサービス」にすぎないと感じる。ここでいう「メタ」の定義は、「複数の異なる世界がつながる」という意味と考えていいかもしれない。

 この定義にのっとるのであれば、MMORPGはメタバースではない。あくまで1社のサービスの上で構築された1つの世界であるからだ。

 同様に、3Dキャラクター同士がコミュニケーションするサービスでも、会議システムはメタバースとは言い難い。Facebookがスタートした「Horizon Workrooms」は、素晴らしくよくできた実用性の高い会議システムだが、あくまで会議室の再構築であり、「メタな世界」ではない。

Horizon Workroomsデモビデオ。Oculus Quest 2があれば実際にこの通りのことができて、ちゃんと会議になる

 逆に、古いものではあるが「Second Life」はメタバースだ。ユーザーが土地を借り、その上に自分で作ったオブジェクトを置いて世界構築ができる。VRChatもそれぞれ「ワールド」を作り、その中に自分でコンテンツを作って多数の世界がつながった状況を作れる。そういう意味では、「Minecraft」だって、自分でマルチプレイ用のサーバを作れば、「それぞれの世界を持つ」ことが可能になる。

 1つの企業が作った1つの個性の世界には限界がある。複数の個性の世界がつながることで、自分が居たい場所・過ごしたい場所を構築できるのが「メタバース」と呼ばれる存在の本質といってもいいだろう。

 1つの運営ルールに基づいた社会に全員が入るなら、それは現実世界でもいい。現実世界とは違う自由度や価値観を実現できることが仮想世界の価値と考えるのであれば、世界は複数存在するのが当たり前だし、人はそれぞれの世界を移動したいと思うようになるはず。だからこそ「メタ」バースという概念が重要になってくるわけだ。

 実のところ、その世界は3D空間・VR空間である必要はない。以下は、9月4日にGoogleが開いたイベント「Google Indie Games Festival」の「Adventure」と呼ばれる仮想イベント会場だ。3Dにはなっていなくて、レトロなRPGのような外見になっている。これはインディゲームイベントという特性に合わせてものでもあるだろうが、「イベント会場の中を自由に歩いてゲームを見ていく」という体験において、3Dが必須ではないことも示している。

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photo 「Google Indie Games Festival」の「Adventure」。2Dグラフィックスによってイベント会場を作り、自由に動きながら楽しめた

 3DとVRには現状「移動が面倒」「視界が狭い」という欠点がある。ゲームの場合にも、画面端には2Dの全体マップが別途表示されていることが多いだろう。冷静に考えると、移動時には3Dの表示ではなく全体マップを見ながら動いていたりする。「街を歩く」という体験を完全に再現できない以上、別の形を作るしかないのが実情だ。

 それでも3D・VR表現が注目されるのは、結局のところ「2Dよりも実在感がある」からに他ならない。現状は、移動を採るか実在感を採るかという選択の結果として「実在感の拡大がより新鮮味があって重要」と考えられている……ということなのだろう。

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