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コラム
» 2021年09月30日 20時26分 公開

ファスト映画だけでは終わらないファスト問題

「ファスト映画」はタイム・パフォーマンスを重視する世代や消費者に受けたといわれるが、作品が生まれてくる土壌そのものを破壊してしまいかねない行為だ。そして映画だけの問題でもない。

[本田雅一,ITmedia]

 夏にメディアを騒がせた「ファスト映画」。6月に投稿者から初の逮捕者が出て以降、ナレーターを務めた人も書類送検されたり、著作権者から多額の損害賠償を請求されたりと話題になったが、この問題は映画に止まらない危うさをはらんでいる。

「ファスト映画」投稿者の起訴を伝えるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)の発表

 ファスト映画は、長編の映像作品を10分程度の動画にまとめ、ストーリーを把握できるようにナレーションを入れたダイジェスト映像のこと。作品を全て観なくても全体を把握できるため、タイム・パフォーマンス(時間あたりの効率の良さを表す造語、タイパやタムパと略すことも)を重視する世代や消費者に受け、YouTubeなどのユーザー投稿型動画共有サービスを中心にここ数年、投稿数が増加していた。

 しかしファスト映画は作成やアップロードに違法性があるだけではなく、映像作品のファンにとっては、大好きな作品を生み出すクリエイターのビジネスモデルを壊す存在だ。映画だけではなく、コミック、小説などさまざまな作品にタイパを求めすぎると、作品が生まれてくる土壌そのものを破壊してしまいかねない。

 ファスト映画といっても作り方は多様で、DVDから映像を抜き取って編集する場合もあれば、劇場公開されている映画を隠し撮りして編集したものもあった。隠し撮りはもちろん、著作権保護が施されているDVDのコピーガードを破って映像を利用するだけでも法的な問題は生じる。

 投稿者の中には単にアクセス数と広告料を稼ぎたいといった理由の他、「お気に入りの作品をより幅広い人たちに知ってほしい」という人もいた。視聴する側もコロナ禍で映画館へと足を運ばなくなった代わりに新しい作品と出会う場として捉えていた人も少なくない。しかしクチコミで優れた作品を紹介したいのなら自分の言葉で動画を作れば良かった。

泣きながら映画を見る人達のイラスト(出典:いらすとや)

 ファスト映画をアップロードしていたあるアカウントは「映画を解説している」というスタンスだった。しかし、あらすじとクライマックス、結末までを伝え、映像や音声まで使いまわすことを世間では解説といわない。

 「広告収益の半分は著作権者に入るのだから問題ない」と主張する者もいた。この主張は一時ネット上で頻繁に見られたが、明らかな誤りだ。

 彼らの論拠は、YouTubeが運用しているContent IDという仕組み。音楽や映像の特徴を抽出し、著作権者が存在する場合には権利者に収益が還元される。収益は折半の場合もあれば、著作権者が全てという場合もある。ただし、Content IDは「ネットで動画が共有される事による著作権者の不利益を是正するための仕組み」であって、著作権者が配信者にライセンスを行なっているという意味ではない。

 例えば音楽の場合、多くは著作権者がContent IDによる収益の還元を承認しているため問題になることは少ないが、これは著作権者が容認しているからであって法的な問題がクリアになっているわけではない。そもそも著作権者は許諾をしていないのだから、いつでも配信者に対して責任を問える状況にある。

 このようにファスト映画に関しては様々な議論があるが、配信者側の主張は全て退けられていると考えていい。いずれにしても彼らは著作権者に無断で作品を編集し、自らの解釈であらすじをナレーションして利益を得ていたのだ。

 そもそもファスト映画で収益を上げる配信者が生まれる背景には、YouTubeがGoogleに次ぐ検索サイトであることが関係している。求める情報にすぐアクセスできる環境が視聴者を増やし、それが利益につながるためにファスト映画が増えた。この現象は映画だけではなく、テレビ番組や書籍などさまざまな分野で起こり得る。

 例えば書籍の内容を独自の解釈で解説しているYouTubeチャンネルがある。本をすべて読まなくても主旨を理解できるというコンテンツだが、これにもファスト映画やかつてのキュレーションメディアに近い危うさを感じる。

 著作権の話だけではない。書籍の解釈や捉え方は読んだ人によってそれぞれのはずなのに動画視聴者が受ける解釈は制作者の考えに依存してしまう。そこにミスリードがあったり、視聴者に「よく分かったので本を読む必要はない」と思われてしまうと著作者にとっては不幸なことだ。

 クリエイターの利益を損ね続ければ、結果として新しい創作物は生まれにくくなってしまう。作品の内容を網羅したファスト◯◯は、どんなジャンルであってもコンテンツを楽しんでいる消費者にとって害悪となる行為だと認識しておくべきだろう。

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