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ガラス張りヒトカラが中国でスクラップ化していく背景 暇つぶしとキャッシュレス決済の行方(2/2 ページ)

» 2021年10月20日 06時06分 公開
[山谷剛史ITmedia]
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なぜマイナスのビジネスがもてはやされたのか

 ではなぜマイナスになるビジネスが盛り上がって中国を席巻したのか。2015年からの動きを当時のミニKTVの記事を読み解きながら振り返ってみる。

 ミニカラオケへの投資は2015年から活発になり、2018年まで行われた。中国でキャッシュレス決済が普及し、続いてシェアサイクルなどシェアサービスブームが巻き起こったときに、ミニカラオケも一気にその数を増やした。

 特に元気だったのは友唱M-barだった。テンセントのカラオケアプリである全民K歌(WeSing)と提携していてコンテンツは保証されていたし、SNS機能も1つ上をいっていた。加えて自動販売機大手の友宝が資本注入したことで、中国全土に展開していった。

 全民K歌はミニKTVやアプリだけでなく、スカイワース、康佳、極米などのテレビメーカーと提携し、レノボとは専用カラオケマイクとタイアップし、オンラインとオフライン、どちらでも歌うデータを共有できた点が強かった。もっとも、そこまで使いこなすヘビーユーザーはそう多くはなかったが。

 2017年にはイケイケなミニKTVを紹介するこんな記事がテンセントのニュースメディアに掲載された。

 「購入費に加え、通信費設置費用、それにテナント代を合わせれば1台に3、4万元はかかる。1日平均で500元稼げれば、半年で設置費用は回収できるだろう。自動販売機に比べ、ミニKTVは商品を購入する必要がなく、最新機種はリモートでオン/オフをコントロールでき、無人でメンテナンスできる。清掃など少しの作業で投資金が回収でき、もうかるのだ」

 テンセントだけではない。2017年当時、調査会社のiResearchはミニKTV市場について、「ミニKTV市場は前年比92.7%増で、さらに2018年には前年比120.4%増となり、市場は大きく増加するだろう」と右肩上がりを予想していた。当時のミニKTVは若者中心に利用され、順番待ちすらあった。

 しかしそれまで2台設置すれば1日300〜400元の収入が固かったミニKTVが、4台稼働させても数日で20〜30元しか利益が出ないという事態となる。

 登場当時は新鮮味があり若者が利用していたが、モールにクレーンゲームやカプセルトイなどが登場して若者の暇つぶし場所が分散。ライバルに比べて1回の利用料金が高く、新鮮味がないのでユーザーが突然離れてしまったのだ。

 カラオケ自体は斜陽ではない。カラオケアプリによるオンラインカラオケの利用者数は、調査が開始された2014年から一貫して上り調子だ。例えば前述の全民K歌のMAUはカラオケアプリの中では最も多く、1億3543万人となっている。

photo 全民K歌は未来感あるカラオケ空間を出していったが

 ミニKTVのニュースを見ると、2017年までイケイケのニュースばかりだったのが、その後ニュースがなくなり、2020年に「ミニKTVは儲からず無用の長物と化した」という記事が出ている。思ったほどもうからなくなった時点ではまだ様子見でニュースも出ないが、コロナ危機で全く稼げなくなった頃にはネガティブなリアルが報じられたわけだ。

 暗い未来を予想していたメディアもある。億欧網という小規模テック系メディアが2017年に、「皆がミニKTVは儲かるというのになぜ投資者は後ろ向きなのか」という記事を掲載している。

 「(2017年当時の)この状況は極端な状況で現実はずっとこうはならない。娯楽は多種多様であり、今後の市場は予想できよう。個人的には投資したくない」という投資者のコメントを掲載している。まさにその通りになったわけだ。

 中国のモールに時間つぶしのための新しい娯楽ができることで、熱しやすく冷めやすい中国の消費者が離れていった。メディアも次に何が出てくるかを予想できず、筆者も含めて中国をウォッチする日本人もその情報に乗せられてしまった。

 流行しているものを後押しする中国メディアの記事は非常に多い。無数の記事の中から、ダメになる可能性を示唆する文章を発見しないと、正確な将来予測はできないようだ。

 最後に筆者の予想を。

 以前、ミニKTV同様に持ち上げられて盛り上がった末に絶滅危惧種となったものに、無人スマートコンビニがある。

 新しい無人コンビニ店舗がひっそりとオープンしているのを見るに、ミニKTVも完全に絶滅するようなことはなく、そこで培った技術は別のガラス個室のサービスに転用される。そんな未来が来るのではないだろうか。

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