自動販売機は商品を売るだけ――こんな考えはもう古い。いまや自販機は売れ筋商品や販売時間帯、さらに代金を入れてからボタンを押すまでの時間といったデータを収集するIoTデバイスなのだ。
こうした自販機約70万台を管理するコカ・コーラ ボトラーズジャパンは「実は70万台の物理デバイスと巨大なデータを持つテック企業」だと、同社の松田実法データサイエンティストマネージャー(ベンディング事業本部)は説明する。収集したデータを基に商品の最適配置などを進めている。
国内に6人しかいないGoogle Developer Expertの1人で、セブン&アイホールディングスやニッセンを遍歴した生粋のデータサイエンティストである松田氏に、人間を凌ぐ“データの力”や企業がデータ活用する上で重要になる考え方を聞いた。
コロナ禍を経て、企業の間では再び攻めのIT活用に対する機運が高まりつつある。本特集ではITmedia NEWSのAI専門コーナー「AI+」と連動し、最先端のデータ活用ソリューションや事例、取り組む際のポイントを、企業のリーダー層やデータ活用担当者に詳説する。
コカ・コーラ ボトラーズジャパンは、コカ・コーラ製品の製造・販売・容器の回収などを担う国内最大のボトラーだ。販売エリアは1都2府35県で約1億1200万人をカバーし、年間販売数量は約5億ケースに上る。自販機の設置台数は飲料メーカーの中でトップクラスの約70万台で、同社の年間売上収益約8000億円のうち24%を自販機が占める。
大量の自販機からどのようにデータを得ているのか。オンラインの自販機では、消費者が購入した商品の情報を即時データベースに蓄積する。ネット未接続のものはラウンダーが商品の補充・入れ替えなどの際に、ハンディ端末で読み込んだデータを拠点に持ち帰ってデータベースに接続する。
収集するデータは、売れた商品や本数、価格、販売時間帯、自販機設置地域、代金を入れてからボタンを押すまでの時間などだ。これらはデモグラフィックデータとジオグラフィックデータに分類されるという。
ちなみに「コカ・コーラの自販機」と聞くと真っ先に「Coke ON」アプリを思い浮かべる人もいるだろう。しかし同アプリは商品の企画・開発や原液の製造を行う日本コカ・コーラが手掛けるもので、コカ・コーラ ボトラーズジャパンとは別会社だ。今回は自販機から集めたデータの活用に取り組むコカ・コーラ ボトラーズジャパンの事例について紹介する。
70万台の自販機で1日1本商品が買われれば、1日で70万行のレコードが発生する。これを踏まえて松田氏は「蓄積データの件数は、数十億から数百億に上るだろう」と話す。
「最近はビッグデータという言葉が独り歩きしていて、『データを集める基盤ができました』という声も聞くが、集めることが目的ではない。データをどのように活用するかが重要だ。そこでデータの扱い方を心得た人材が社内のハブになる(ことで臨機応変に活用できる)」(松田氏)と力説する。コカ・コーラ ボトラーズジャパンでは松田氏がそのハブというわけだ。
コカ・コーラボトラーズジャパンのデータ活用方法の一つに、自販機の売れ筋を基に商品を補充するサイクルの構築がある。松田氏は実例としてスポーツ施設で起きたことを挙げた。
「スポーツ施設だから、アクエリアスなどスポーツ系飲料が売れるだろうと思っていた。しかし実際にはそれらよりもホットのミルクティーなど(体を動かした後に飲むとは思えないもの)がたくさん売れていた。現場で調査したところ、保護者が待ち時間に利用しているということが判明した。データがなかったら調査すらしていなかった」(松田氏)
スポーツ施設だからスポーツ系飲料の種類を増やし、欠かさず補充しよう――こんな先入観にとらわれてしまっていたら、相当の機会損失になっていただろう。体を温めたい、甘いものを飲みながら雑談を楽しみたいという保護者たちのニーズも満たせなかった。
「機械は先入観も固定観念も偏見も持たない」と松田氏は話した。
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