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Logic ProのDolby Atmos対応は「空間オーディオ民主化」への第一歩 3次元空間でのランダムトレモロを体験してみないか?(2/3 ページ)

» 2021年11月16日 10時27分 公開
[松尾公也ITmedia]

 このように、いわば高根の花であったDolby Atmos制作システムだが、これを一般ユーザーにも使えるようにする、「民主化」するツールをAppleが提供するというのだ。ソーレンさんによれば、そのための三種の神器が新しいMacBook Pro、AirPods Max、そしてLogic Proだ。

 M1よりもさらに強力なプロセッサであるM1 ProとM1 Max、そして大きなメモリ空間(32GBと64GB)を備えた14インチと16インチの新型MacBook Proは、トラックを多く使い、プラグインを重ねまくる現代の音楽制作においては、演算性能とメモリ、さらに爆速のSSDという要素が加わり、オーディオワークステーションとして超強力なものとなった。

 ディスプレイに関してはカメラユニットによる「ノッチ」の存在を気にする人がいるが、試用した16インチM1 Max MacBook Proで3456×2234ピクセル中375×70ピクセル、345×223mm中37×4.5mmと気になるほどではない。DAWにおいては縦方向の解像度が増えることによるメリットの方が大きいし(表示トラックが増える)……と考えていたのだが、Logic Proでは全画面モードにしてもメニュー部分にせり上がらない仕様なので、拡張された表示領域を使えないのはちょっと残念である。

 インピーダンスマッチングに対応したヘッドフォン端子の改善、最近のオーディオインタフェースでも一般化してきたUSB-CとThunderboltポートが増えたこともあり、いいことだらけと言っていいだろう。

photo MagSafe電源ポートが復活したことでUSB-C/Thunderboltポートが有効活用でき、3.5mmヘッドフォンジャックはインピーダンスマッチング対応

 筆者の場合はM1 iMacを導入したばかりなのでこれでも十分だが、そうでなければ新型MacBook Proが第一候補になるだろう。

 AirPods Maxでなくても空間オーディオのモニタリングはできるが、最終作品と同様の環境を揃えることを考えると、AirPodsシリーズの中でも最高の音質を持つAirPods Maxが最適だろう。ソーレンさんも強く勧めていた。

photo AirPods Maxで空間オーディオモニタリング

 そして、Logic Pro。Appleは2021年6月の時点で、年内にLogic ProにDolby Atmosの制作環境を導入すると明言していたが、10月19日にLogic Pro新バージョン10.7のリリースにより、それが実現した。

photo Logic Proの執筆時点での最新版は10.7.1

 Logic Proは2万4000円。競合するフルスペックのDAWよりはるかに安い、数分の1の価格で、Macは何台でもインストールできるし、ドングルはいらないし、バージョンアップは無料だ。Dolby Atmosに対応する機能も無料で追加されたので、そこだけでも“3万3000円分お得”というわけである。これから空間オーディオ制作を始めるのなら、Pro ToolsやCubaseでやるより、いきなりLogic Proを買った方がお得という、おかしなことになっているのだ。

 Logic Proはバージョン10.5から、ビリー・アイリッシュの初期作品「Ocean Eyes」プロジェクトがサンプル曲として入っている。最新バージョンではこれに加えて、リル・ナズ・Xによる大ヒット曲「MONTERO」の通常ミックスと、空間オーディオミックスの2種類のプロジェクトが追加されている。Dolby Atmosに対応したデモプロジェクトが含まれている。Dolby Atmosに対応している方のプロジェクトを再生してヘッドフォンで聴けば、Surround Pannerによりそれぞれのトラックの音像がどのように動いているかを実感できる。

photo プロジェクトを空間オーディオ対応に変換できる
photo ビリー・アイリッシュの「Ocean Eyes」をLogic Proで空間オーディオ化してみた

 さらにこれはすごいなと思ったのが、「Live Loops」のDolby Atmosプロジェクト「Spatial Audio Demo Grid」が入っていることだ。

photo デモプロジェクトにはLive Loopsの「Spatial Audio Demo Grid」が入っている
photo Spatial Audio Demo Grid

 Live Loopsというのは、縦横のマトリックス上にループサウンドの再生ボタンが並んだ、Apple独自のサウンドプレイヤーモード。最初にiPad/iPhone版のGarageBandに導入され、それが2020年5月にLogic Proにも導入された。

 一度に多くのサウンドを操作できるため、EDMの制作に向いているが、リアルタイムで音色やボリューム、エフェクトを操作できるので、ロックでもR&Bでも、EDM以外のジャンルのトラックメイキングに使える、非常に現代的な制作ツールだ。

 これで空間オーディオをいじるとどうなるか、その片鱗を見せてくれるのが、このデモだ。従来のLive Loopsグリッドであればステレオパンが表示されているところに、3D Object Pannerが簡略表示され、それをダブルクリックすると、自分の前後左右、そして高さのどこにサウンドが位置しているかがリアルタイム表示される。

 Live LoopsモードはもともとiPadでの使用を考えられていただけあって、マルチタッチジェスチャーによるインタフェースの方が使い勝手がいい。そのため、iPadをLogic Proのコントロールサーフェスとして使えるLogic Remoteという無料アプリが提供されている。これを使うことで、両方のいいとこ取りができるのだ。

 もっとも、Dolby Atmosのコントロール部分はLogic Remoteではアクセスできないようで、それは今後の課題となるだろう。

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