欧米圏の書籍を原語で出版する場合にはType 1が多く使われてきた。このためこれらの出版社はType 1が将来使えなくなることを見越し、過去の入稿データを含め、早めにOpenTypeに移行したケースもある。雑誌や書籍でも、OpenTypeフォーマットが主流となってきた2000年代後半からのデータについては、豊富なOpenTypeフォントでの運用が中心になっているので、この分野での問題も少ないと思われる。
問題は1980年代後半〜2000年代前半にかけて出版された印刷物だ。筆者はこの時代、DTPの現場にいて多数のPostScript Type 1フォントをデザインやレイアウトで使用してきた。その理由は、フォントプロテクトや出力デバイスへの制限が少なく、PC環境下で扱いやすかったことである。
高価なライセンス料ではあったが、Adobe Font Folioに収録されている書体やLynotypeが販売していたType 1バージョンのLynotype Universを好んでデザインフォーマットに組み込んでいた。特にLynotype Universはファミリーのバリエーションが豊富で、InDesignの合成フォントとして多用してきた。日本語フォントがCIDフォーマット中心であった時代には、豊富なType 1フォントを組み込むことで紙面デザインの精緻なコントロールができるのも大きな理由だった。
筆者は過去、Type 1フォントの運用について誤った判断をした。
OpenType日本語フォントの使用がページデザインの前提になった2000年代後半になっても、Type 1フォントを合成フォントとして組み込むことを続けていたのだ。担当する雑誌が月刊誌や隔週刊誌であったため、日々の多忙さにかまけてType 1フォントを同じフォントのOpenType版にアップデートしなかった。
このことにより、出版社やプリプレス・印刷現場の方々に過分な負担をかけてしまったことを今は猛省している。どんなに手間がかかっても合成フォントをOpenTypeに統一するべきだった。この点についてはデザイナーの傲慢と怠慢というご批判を真摯に受け止め、心からおわびを申し上げる。
フォントフォーマットの改変はデジタルの世界では必要なことだ。
2021年の現在ではOCF、Type 3といったフォントフォーマットで作成された新規書類を目にすることはない。CIDやTrueTypeについてもとっくに主流ではなくなっている。しかし、そんな中でもType 1フォントは日本のDTP・デザイン業界では長く使われ続けてきた。「とりあえず動くから」「このまま今のアプリケーションでも使えるから」という、アップデートを先送りにしてしまいがちな現場の事情も大きい。
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