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働き方改革のはずが燃え尽きる――「テレワーク・バーンアウト」はなぜ起こる?小寺信良のIT大作戦(1/2 ページ)

» 2021年12月28日 13時28分 公開
[小寺信良ITmedia]

 日本を含め、世界全体が強制的にテレワークを強いられるようになって、2年が経過する。

 もちろんテレワーク可能な職種とそうでない職種があり、また感染者数によってはテレワークが必須な地域ととそうでもない地域に別れているところではある。そんな中、2020年末ごろから徐々にテレワークにおける「バーンアウト」(燃え尽き症候群)の問題が指摘されるようになった。

 会社に出勤し、決められた時間内で働くというスタイルは、キリがいい。場所と時間を区切ることで、仕事に集中、それ以外は自由という切り分けができる。それが「働き方」であったものが、急に形が変わったことで、どこでどう仕事を切ればいいのか、分からなくなっているというのが実情のようだ。

 12月23日、アンチウイルスソフトで知られるAvast(NortonLifeLockとの合併が決まっている)が、リモートワーカーの就業後の行動についての調査結果を発表した

 これによれば、終業後に仕事の連絡、確認、作業を行わずに完全にオフにしている人は46%で、残り54%は何らかの事情で完全にオフにはできないと回答している。

photo 終業後のオフ状況

 ではオフになれない場合に何をしているかというと、連絡を取り合ってコミュニケーションを維持し続けている。実際に業務対応している人もかなりいる。

photo 終業後オフになれないときの業務内容

 これまで物理的にも時間的にも「キリのいいところ」で仕事してきた方にとっては、自宅でいつまでも仕事から開放されない、終わりが見えないというのはつらいだろう。だがどうしてテレワークでは、オーバーワークになってしまうのだろうか。

 これには、3つ理由があるように思われる。まず1つ目は、「フレームワーク」の違いだ。会社に行けば始業時間や昼休み、休憩時間、就業時間が決められており、自分のデスクや備品もそろっている。つまりフレームワーク(型)ができているので、そこに自分をセットすればいいだけである。

 一方自宅でのテレワークでは、否応もなく身の回りに日常生活が付いて回る。大きなオフィスでは、掃除やごみ捨てなどが専門業者がやってくれるだろうが、自宅なら掃除洗濯はもちろん、トイレ掃除に至るまで全部業務時間内にふりかかってくる。

 さらに自分の都合でコントロールできない子供や家人が常に周りにいては、仕事だけに集中するわけにはいかなくなる。仕事中に急きょ買い物や子供の送り迎えを頼まれるなど、一定のフレームワークからはみ出す対応が常時求められる。仕事が中断すれば当然効率は下がり、決められた時間内に決められたタスクが達成できなくなる。結果的にタスクが終わるまで働き続けることになる。

 2つ目は、明日は今日と同じではない、何が起こるか分からないという不安だ。毎日会社に行けば、今日と明日の事情はあまり変わらない。同じ日常が安定して続く。

 一方特定のフレームワークなき環境での就業では、たとえ今日のタスクが無事終わっていても、明日も今日のようにうまく働けるか分からない。だから明日のぶんまで今日の夜に少しやっとこうと、仕事をどんどん前倒しに詰めてしまう。

 3つ目は、仕事自体が唯一の社会との接点になってしまうことだ。通勤や外食がなくなれば、赤の他人と接する機会もない。外出を控えろと言われなくても、自宅が仕事場であればそうそう外に出る機会もない。職場の仲間との雑談もなくなり、話す相手は家族だけになる。普段からSNSで積極的に発言するわけでもなく、アカウントはあるがほぼ放置というのであれば、社会とのつながりは業務連絡のみとなってしまう。だからいつでも仕事のメールが来れば見てしまうし、返信してしまう。

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