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働き方改革のはずが燃え尽きる――「テレワーク・バーンアウト」はなぜ起こる?小寺信良のIT大作戦(2/2 ページ)

» 2021年12月28日 13時28分 公開
[小寺信良ITmedia]
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テレワークの“燃え尽き”は「働かせ方」に問題あり?

 本来ならば組織改編なども含めてじっくり下準備をしたのちにテレワークに移行というのが通常の手続きだろうが、このコロナ禍で出勤を減らすことになり、半ば無理やり始めることになったのが今回のテレワークである。従ってまずは単純に、会社でやっていたことを家に持ち帰ってやる、というところからスタートしたところが多いだろう。

 十分な通信インフラは家庭にあるのか、そもそも仕事する場所は確保できるのか、といった環境整備に始まり、勤怠管理をどうやるか、時間外は残業が付くのか、といった制度作りまで急ピッチで進んだ。だがこれは、フレームワークのうち、働く場所・環境の問題を解決したにすぎない。

 相変わらずみんな一斉に午前9時開始、午後6時終了、以降残業みたいなフレームワーク型の働かせ方では、単に時給計算で払うのと変わらないわけで、管理職はその時間内にサボらないか、会社出勤では不要だった常時監視が必要になる。そして各社員のPCに監視ツールを入れましょうみたいな話になる。

 だがこうした働かせ方は、家庭にいれば規定の勤務時間全てを仕事のために費やすことはできないという現実と矛盾する。

 場所の問題が解決したら、次は時間の問題を解決する必要があるはずだ。つまり全員が決まった時間内に労働するという仕組みではなく、何日間でこれだけのタスクをクリアする、その間の時間の使い方は自由、という「タスク型」へシフトしなければならない。

 筆者のようなフリーランスのライターは、コロナ禍と関係なく以前から自宅作業がほとんどなわけだが、時間の使い方はもともと「タスク型」である。原稿依頼に対して締め切りがあり、その日までに仕上げて入稿することが求められるだけである。

 タスク型の労働は、始業から終業までといった明確な区切りがなく、日常生活の中に仕事を溶かしていくイメージだ。毎日のサイクルとして、大抵は午前中、9時半ごろまでには仕事を始めるが、それはフレームワーク型で仕事をしている人たちに合わせた連絡事項等の処理や、今日の仕事の資料集めや調査である。

 お昼前には掃除したり洗濯したり洗い物したり借りているハタケの様子を見に行ったり、ついでに昼食を食べたりしたのち、午後から本格的に仕事をする。夕方は仕事の途中でも夕食の買い出しに行ったり、調理したりする。家族が全員そろうまでまた少し仕事をして、午後7時頃から夕食。そのあとまた8時ごろから仕事に戻り、だいたい11時ごろに終業する。夜に子供の習い事に連れて行く日は、駐車場にとめた車の中で仕事したりすることもある。実質的な労働時間はだいたい8時間である。

 テレワークだと仕事中にたびたび起こるこうした「割り込み」によって中断を余儀なくされる、という考え方ではうまく行かない。そもそも出勤によるフレームワーク型の労働のほうが、割り込みが頻出していたはずだ。ただそれは別の「業務」が割り込むので、トータルとしては仕事しているという意識がある。その意識のままテレワークに移行すると、仕事ではない私用や家事が割り込むことに対して、罪悪感を感じてしまう。

 だからタスク型へシフトして、仕事を日常に溶かしていくことで、そうした罪悪感、「仕事をサボっている」という意識から開放する必要がある。

 もちろんこの中でも、イレギュラーな事態は起こる。昨日は娘が自転車で転んでけがしたというので、急きょ病院に連れて行くことになった。こうした対応がすぐにできるのも、タスク型で仕事しているからだ。いったん仕事を始めれば、子供に何かあっても何もできないといった、従来型の働き方とは違うのだということを強く意識した事例だ。

 テレワークに関する悩みの記事や調査はたくさんあるが、多くは従来のフレームワーク型をそのまま自宅に移しただけの状態を語っているだけで、「仕事のさせ方」のシフトチェンジ意識が薄いように思える。そもそも「テレワークに向いている/人向いてない人」のように、人の資質の問題ではないはずだ。

 そして「働かせ方」のチェンジの先に、社員同士のパートナーシップをどう維持していくか、という話が来る。多くの記事や調査を見ていくと、その順番が逆になっているように思えて仕方がない。

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