こうした状況になってきていることには理由がある。
それは、国連欧州経済委員会自動車基準世界フォーラムにおいて、地球環境保全と二酸化炭素排出量の削減を目的として、「UN-ECE R51-03」(以下、R51-03)と呼ばれる提言がされたことに起因している。この提言に対しては、SDGsに高い関心を示している我が日本も、当然のごとく賛同の姿勢を示している。
この「R51-03についての細かい要項」については、各自で調べてほしいが、ざっくりと解説するとこれは「時速50km走行時の騒音規制」になる。
ただし、車検時などに測定されるマフラーの近接排気音だけではなく、タイヤが発する音や、エンジンの稼働音など、「自動車が発するあらゆる騒音全体に対する規制」であるため、かなり厳しい規制となる。
「厳しい規制」であるがゆえに、自動車の種別によって多少の寛容姿勢が設定されており、例えば多くの人を運ぶバス、重い荷物を運ぶ運送用トラックなどに対しては、70dBを大きく超えた騒音でも許容している。
一般的な自動車に対しても同様で、高出力(≒大馬力)の高性能車、つまりスポーツカークラスに対しても、相対的には“甘め”にはなっている。ただ、以前の規制よりはだいぶ厳しいことは間違いない。
なお、R51-03の騒音規制区分は、「出力W(≒馬力)+車両重量kg」で求められるPMR(Power to Mass Ratio)値によってクラス分けされており、日産GT-R(PMR≒240)のような高性能スポーツカーに代表される「PMR>200」クラスの車は、ホンダ・フィット(PMR≒65)のようなコンパクトカーに代表される「PMR≦120」クラスの車よりも、4dBくらいは騒音が大きくてもよいことにはなっている。
このR51-03の騒音規制は、突然厳しくなっても自動車メーカーが対応ができないことから、施行猶予期間のような仕組みが設けられており、具体的には、フェーズ1、2、3と年を経るごとに厳しさを増すようになっている。
例えば、新型車については既にフェーズ2が2020年より施行開始済みだが、既存車種の継続生産車についてはフェーズ2は2022年秋より施行が開始されることとなっている。さらに厳しさを増すフェーズ3は、新型車については2024年から、継続生産車については2026年から適用が始まる。
フェーズ2,3の騒音規制に関する情報をまとめた簡易的な表を下に示すが、例えばフェーズ2ではPMR>160クラスの車で73dB、PMR>200クラスの車で74dBまで許されていた騒音レベルは、フェーズ3ではそれぞれのクラスで「-2dB」の削減が要求されるわけだ。
上で挙げたような2021年に「生産終了」が発表された車種は、2022年秋より継続生産車についても対象となるフェーズ2規制への対策が断念されたモデルということだろう。逆に「新モデルの投入」や「マイナーチェンジ」が行われた車種は、このフェーズ2規制への対応の見通しが立ったということだと推測する。
しかし、継続生産車に対しても、より厳しいフェーズ3が適用されることとなる2026年には、メーカーは今年2022年と同じような「純ガソリンエンジン搭載スポーツカー車種をどうするか」という命題を突き付けられることとなる。
おそらく2026年には、今年2022年以上に、多くの純ガソリンエンジン搭載スポーツカーが生産終了に追い込まれることとなるだろう。
R51-03規制は、中古車には適用されない(その車両が生産された年次の規制が適用される)ので、新車で手に入れることにこだわらなければ、純ガソリンエンジン搭載のスポーツカーを所有するチャンスはまだまだある。ただ、その希少性は増すため、そうした車種は、中古車なのに新車時を軽く凌駕した価格で取引される事態は起こりうるだろう。
純ガソリンエンジン搭載スポーツカーを新車で手に入れられるのは、もしかすると2026年まで……ということになるかもしれない。このジャンルを好む、筆者のような「スポーツカー好き人間」は、今からあと4年ほどの間に大きな決断をする必要があるかもしれない。
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