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月面探査機「玉兔2」による月の裏側の調査報告 暗い緑色に光るゲル状物質を発見Innovative Tech(1/3 ページ)

» 2022年01月26日 08時00分 公開
[山下裕毅ITmedia]

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 中国のハルビン工業大学とBeijing Aerospace Control Center、Key Laboratory of Science and Technology on Aerospace Flight Dynamics、中国科学院、中国空間技術研究院、カナダのライアソン大学、ドイツのLarge Space Structures GmbHによる研究チームが発表した論文「A 2-year locomotive exploration and scientific investigation of the lunar farside by the Yutu-2 rover」は、月面探査機「玉兔2」(Yutu-2)による月の裏側の移動探査について、初期の2年間で行った探査内容や分析結果を詳細に書き記した調査書だ。主に、25日間の探査記録(CE-4ミッション)をベースに報告する。

(A)左:嫦娥4号、右:玉兔2、(B)メッシュの車輪、(C)玉兔2に搭載する多様なカメラとセンサー

 探査機(重量135kg)である玉兔2は、4つの操舵モーターを搭載した6輪のオフロードロボットで、最高時速は200m(約0.056m/s)に達する。ロッカーボギー構造の採用により、20度の傾斜を登り、高さ200mmまでの障害物を乗り越えられる。車輪はメッシュ状になっているため軽量(735g、直径300mm、幅150mm)であり、車輪に取り付けたラグが探査機の走行性能を高めている。

 探査機には、Panoramic camera(Pancam、パノラマカメラ)やVisible and near-infrared image spectrometer(VNIS)、Lunar penetrating radar(LPR)、Advanced Small Analyzer for Neutrals(ASAN)、Hazard avoidance camera(Hazcam、危険回避カメラ)など、高解像度画像や高精度なデータを取得するための装置を多数搭載する。

 2年間で探査距離600.55mを達成し、約16.46GBのデータを送信・解析した。

走行ルートと車輪のスリップ率

 中国の人工衛星である「鵲橋」(じゃっきょう)は、地球軌道外の中継通信衛星で、地上局と玉兔2の間でデータやコマンドを伝送する架け橋として機能し、片道1、2秒の遅延で通信を行う。

 玉兔2の操作は、主に地上からの遠隔操作で作成したコマンドをアップロードし制御するが、比較的平たんな地形では、レーザーや危険回避カメラを使ってトラバース(障害物を避けて進むこと)可能なルートを計画し、自律的に動作させることも可能だ。

 以下の画像は、25日かけて進んだ探査機の軌跡(CE-4ミッション)と、車輪のスリップ率の箱ひげ図を示す。総作業時間は約4019時間。夜と正午は気温が高いため、休息モードに切り替わる。

(A)25日分の探査機の軌跡。黄色の点はウェイポイントを表しており、赤点は、日ごとの出発地点を表している、(B)日ごとの車輪のスリップ率の箱ひげ図

 車輪のスリップ率は-0.15〜0.15で、ほとんどの場合、0〜0.05の範囲にあり、横断したルートで観測した小さな標高差と一致していた。このことから比較的平たんな道のりだと推定できる。

 途中の9日目では、クレーターを探索するのに苦労し、短時間に何度も接近して、光沢のあるゲル状の物質(詳細は後述する)があるかもしれないクレーターを探索した。そのため、この日は平均のスリップ率を算出できなかった。

 このようなクレーターに近づいて探査するタスクは高いリスクを伴う。急峻(きゅうしゅん)なクレーターの壁に沿って走行した場合、車輪の故障により制御不能に陥る可能性があるからだ。クレーターに入ったとしても出れないリスクも抱えている。しかし今回は、光沢のあるゲル状の物質をより調べるために何度も行き来して調査した。

クレーターに向かって何度も走行した車輪の跡
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